劇場公開日 2016年11月12日

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「生涯観続けることになる映画」この世界の片隅に デコポさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0生涯観続けることになる映画

2017年1月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

幸せ

映画を鑑賞する前にコトリンゴさんの楽曲が流れる予告編を見たのですが涙が止まりませんでした。何が悲しかったのか上手く言えませんが、映画を見終わってこれまで絵空事のようにしか想像できなかった戦争という災厄が自分の手が届くところまで降りてきた、そういう映画を見たんだと感じました。もちろん予告編の時点でそんな事は想像できませんでしたから、楽曲含む予告の構成が良かったことと自身の感受性が高まっていた結果でしょうが。

予告編で涙を枯らし尽くしていたので映画はある程度冷静に鑑賞できました。映画は終始登場人物達を身近な愛着を持てる人々として丹念に描いており、一般市民に降りかかる空襲の恐ろしさは音響もあいまって私が見てきた十数本の戦争映画の中でも一線を画していました。そもそも一市民でしかない私が英雄や悲劇の主人公ばかりの戦争映画に共感できる人物を探す方が難しいのでしょうが。とにかく全編通して画面も場面も写り代わりが激しく、悲劇的な場面の後に笑いが巻き起こるこの構成は「悲嘆に暮れる暇なんて当時はなかった」と作品を通して語りかけられているようでした。
歴史認識等は時代と共に変遷するものですが、この作品は徹底して当時の人々を描き出すことに集中しています。片渕監督の言葉をお借りすると今の時代と「地続き」に繋がっています。火垂るの墓と同様何十年たっても色褪せることはないでしょう。この二つは恨み節で作品に特定の匂いをつけていませんから。

最後に、私個人としては部分的にどこが良かったというよりも製作陣・原作者・のんさんを中心にしたキャストの皆さんに上記のような心境にいたるまで連れていってもらったという思いです。今後たくさんの方に見てもらいたいですし、私自身何度も繰り返し見ることになる作品です。ありがとうございました。

デコポ