「日本映画史に残る名作」この世界の片隅に RXさんの映画レビュー(感想・評価)
日本映画史に残る名作
明るく平和だった世界に、少しずつ侵食してくる戦争という絶望。悲惨さを増す日常の中で、明るく逞しく家族と生きていく広島・呉の人々の生活を、市民の目線で描いた作品。前半と後半で毛色が一気に変わります。物に溢れ殺伐とした現代社会の中で、大切な物は何か考えさせられる傑作映画です。遠い過去でない、祖父祖母が生き、経験した時代の話です。
レイトショーでしたが、会場は8割方埋まっていました。笑いあり涙ありで、上映中はあちこちでクスクスと笑いが漏れていましたが、終了後は逆にあちらこちらで鼻をすする音が聞こえました。日本映画にありがちな「泣かせてやろう」「さあ、ここで泣くんだ」という変な演出はなく(私はあれが苦手です)、淡々と進むのですが、それでも気づくと涙がだーっと頬を伝っていました。悲しいこともあるのですがそれだけではありません。平和な日常が破壊されていく恐怖、理不尽な暴力に対する憤り、そんな中健気に必死に生きる人々への憐憫、応援したい気持ち…そんな不思議な感情が合わさって、自然に涙を流させるのです。
皆さんレビューされている通り、能年玲奈はすごかった。声優としての彼女は天才だと思います。あの演技力は努力だけで到達できる領域になく、天性のものでありまさに「すず」そのものでした。のんに合わせて映画作ったのか?と思うほど。テレビ業界の裏事情は知りませんが、彼女は必ず再ブレイクする逸材であることはこの映画だけでも明白ですので早く抜け駆けした方が懸命かと。
また監督の描くほのぼのしたタッチの風景(前半)や、家族の何気ない表情、空襲が本格的に始まってからの雰囲気の変化など、表現方法、演出も秀逸と思います。空襲のシーンは鳥肌が立ち、身がすくむ思いがしました。映画は数多く観ていますが、鳥肌が立ったのはこの映画とトムクルーズの宇宙戦争、2回だけです(宇宙戦争も市民目線ですので、自分が襲われている感覚になったからでしょうか…)。アニメでこうなるとは。これも監督の演出の成せる技でしょう。
もっともっと知られても良い映画です。
日本映画史に残る名作だと思います。
映画関係者の皆さん、上映館まだ少なすぎです。ビジネスとしてもこれを広めない手はないと思いますが。
迷っている方は是非観て下さいね、後悔はしません。