「すずがなくした右手が問うもの。涙を流すだけでなく考えてください。」この世界の片隅に さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
すずがなくした右手が問うもの。涙を流すだけでなく考えてください。
ちょっと前に観ました。
そして、いつものように長文になります。
すみません!お付き合いください。
(あらすじ)
18歳で広島市から呉に嫁いで来た主人公:すず(声:のん)が、戦争により変わって行く世界の中でも、おかしみと優しさの視線を忘れず、貧しい生活の中でも工夫して、心豊かに暮らす姿を描いています。
こうの史代せんせ原作です。
あのー、なんでしょう?
アニメ映画を観てるとか、そんな感覚ではなかったんですよ。
まるで、傍にすずさんがいる感じでした。
私も確かに、あの時代に居たんです。
こんな感覚、久々です。
今までの反戦映画(私は本作をそう呼びたくはないんですが)は、戦争の残酷さ悲惨さを"強調"するあまり、戦争自体を別次元・別世界のものにしている。と、ずっと思ってたんです。
かなり前に、渋谷のスクランブル交差点で20代にインタビューしてるのを見たんですが、「え、日本とアメリカって戦争してたんですか?」って、大半の子が言ってましたからね。
そんな子達に残酷さを"強調"した作品を見せても、実感が湧かないんですよ。
ホラー映画と同じです。
最近の戦争を題材にした邦画って、現代の私達と戦争とを、あまりにも乖離させ過ぎだと思うんです。
戦後70年作品がリメイクとは、情けない限りです。
というか、WGIPの洗脳て、こんなに根深いもんだとぞっとしました。
何故情けないと思うかは、後半のネタバレでちょっと書きます。
本作の凄いところは、観客にあの時代を追体験させることに成功している点だと思います。
何も強く主張せず、ただすずの生活を丁寧に丁寧に淡々と描くことで、私達の生活の地続きにある戦争を追体験させます。
勘違いしないで頂きたいのは、戦争、広島、原爆を描いていますが、悲劇ではありません。
むしろコメディなんです。
笑いが一杯あるんです。
だけれども、私達はこの物語のラストに、原爆により広島が破壊されることを知っています。
その日が、一刻、一刻と、すずに近づいているというのが、苦しくて、苦しくて、胸が痛くて、逃げ出しそうになりました。
この感覚は、7才の時に学校の平和教育で見せられた、「はだしのゲン」以来です。
因みに私は、「(実写)はだしのゲン」を観て、暫く学校に行けなくなりました。
当時は、その理由がよく分からなかったのですが、大人になって考えれば、ゲンが学校に行ってる間に原爆が落ちて、家の下敷きになってお姉さんは即死、お父さんと弟は生きたまま焼け死ぬからだと思います。
あの時、私は始めて、自分の生活の地続きにある戦争を意識したんだと思います。
ただし、「(実写)はだしのゲン」が、現代に通用する反戦映画かどうかは、また別の問題だと思いますが。
何故こんなに、すずを近くに感じるのか?
ちょっと調べてみたら、片渕監督は徹底してあの時代を調べあげて、実はただ道を歩いている人も特定しているらしいです。
残っている資料って少ないので、取材を重ねて、あの広島の街を再現したらしいですよ。
広島出身の父に、この映画を見せたかった!
「原爆ドーム」が、元は広島県物産陳列館であったということの意味を、初めて教えてくれた映画かも知れません。
あと、戦艦とか、呉って軍港があるので、アメリカからの爆撃をとにかく受けるんですが、爆発する時の色とか、破片が降ってくるところとか、今まで観たことないくらいリアルなんです。
そしたらやっぱり、片渕監督ってミリタリーおたくなんですね。
同じくミリタリーおたくの宮崎駿監督を、論破できる唯一の人みたいですね(笑)
爆発する時の、煙の色まで調べてるようです。
そして、あの時の描写が、また凄く良いんです。
戦闘シーンを、あんなファンタジックに描けるんですね!
そうそう、ずずは絵を描くのが上手なんですが、風景が水彩画風になったり、あとミュージカル要素もあったり!
とにかく、すげーです。
これに尽きます(笑)
すげーです!
もう語ろうと思ったら、一晩いけますからね(笑)
でも監督の目的は、アニメ映画を撮ることより、すずとあの時代をリアルに描くことで、その時代を知らない私達を説得することだったのかも知れませんね。
あ、「マイマイ新子と千年の魔法」もそんな感じなので、合わせて観てください。
(以下ネタバレ含みます)
すずは、昭和元年生まれの女性なので、はっきりと自分の考えを言いません。女は黙って耐えろ。な、時代の女性です。
ただ、絵を描くのが好きなんですね。
きっとそれが、彼女の唯一の意思表示だと思います。
でも、その右腕を、爆撃でなくすんです。その手で掴んでいた、姪の晴美と一緒に。
その失った右手の記憶の描写が良くて、また左手で描いた絵がその時代を表しててまた良くて。
でも、失った右手の代わりに、意地悪だった義姉の優しさに気付いたり(このお姉さんもいいの)、夫の愛情、絆が深まり、また新たな命を拾うんです。その子が希望に繋がるんです。
日本は先の戦争で失ったもの代わりに、何も学ばず、そこから何も得ることができず、希望もなく、全く前に進めてないんじゃないか?って、戦後70年作品がリメイクか!って、情けなくなったんですよ。
もう1つ、日本が戦争に負けて、すずが「知らずに死にたかった」と泣くんです。
すずが知りたくなかったこと、はっきりと描かれてなかったように思います。
そこは、汲み取って頂けるといいかなと。
これ、「帰ってきたヒトラー」と、同じようなテーマがありました。
ネタバレの2点、今までの日本の反戦映画にはなかった視点だと思う。
そろそろ、日本も前に進まないと。
そしてコトリンゴさんの「悲しくてやりきれない」が心に響き、泣くまい、泣くまいと思って必死に観てたんですが、ラストで夫の周作がすずを見付けるシーンで号泣。
私が、見付けて貰ったような気がして。
やるせない気持ちが、少し晴れました。
安心して、涙が流れたんです。
人間って、ほっとしないと涙って出ないんですね。
あのー、とにかく観てください!
お願い致します。
PS のんさんって、凄く良い女優さんですね。今更ですが「あまちゃん」観ます!あ、エンドクレジット見逃さずに!