「お前だけは普通でおってくれ」この世界の片隅に 神社エールさんの映画レビュー(感想・評価)
お前だけは普通でおってくれ
片渕監督作品は2009年に『マイマイ新子と千年の魔法』が面白いと聞き、上映期間の終盤の方だったので千葉から埼玉へ遠征して見に行って、その作品の良さに触れDVDまで購入するほど好きな作品だった。
その後、片渕監督がこの作品を製作している事を露ほども知らず、たまたま公開直後にクラウドファンディングでこの作品が製作されたのを聞き、監督が誰なのかを調べたところ、マイマイ新子の片渕監督だと知って興味が湧き観賞。
冒頭はのんさんののんびりとした喋り方に違和感(物語との齟齬を感じると言う意味ではなく、今まで出会ったことのないキャラクターとして)を感じたけれど、物語を見ていくうちにすーっと自分の中で馴染んでいくような気分になった。
観賞していると、アニメーションなのにまるで帰省したときに親戚のおばあちゃんから昔の思い出話を聞かせてもらってるような感じを受けた。
それは全体を包む淡い色調のおかげかも知れないし、大変な人生だったにも関わらずそれを感じさせない、のんさんののほほんとしたモノローグのおかげかも知れないけれど、そのお陰で観賞直後も(顔は涙でぐしゃぐしゃだったけど)清々しい気持ちで劇場を出れた。
周平役の細谷さんや哲役の小野大輔さんは他のアニメ作品で声質の感じやどんな演技をするか解っていたのに、予めキャストを知らないと途中まで全く気づかない位(アニメっぽい)演技の感じが無く、そこに住んでいた人として見れたし、細かいディテールが現代人の自分でも徹底的な取材を行ったんだろうなあと思う位にその時代の雰囲気に触れた様な疑似感覚に陥る位とても良かった。
そんな中でも観賞後に一番心に深く残ったのがクラスメイトだった哲からの「おまえだけは普通でおってくれ」と言うセリフ。
戦争の中、すずに掛けたこの言葉は戦争と言う1つの方向に意見が集中する(アメリカは敵だ!などの)時でも価値観をフラットに、そのままのお前でいてくれって事でもあり、
現代に生きる我々にとっては、日々SNSで人を叩く(糾弾する)人がどこかしらでいて、技術は進化しても人々はどこか自粛するのが当たり前のような違和感のあるこの世界で、そんな中でも普通の価値観を持ち続けることの大事さを解いてるように感じた。
この世界の片隅にってタイトルはすずさんがこの世界の片隅に生きてる(生きていた)って意味でもあり、この世界と地続きに今の世界がある(からこそ普通でいることの大事さを謳う)って意味にも感じたなあ…。