「傑作」この世界の片隅に ハルさんの映画レビュー(感想・評価)
傑作
そう言って憚ることはないと思う。
今作は原作がとても良いので、そうすると映像化作品に対しての評価は往々にして低くなりがちだが、まったくもって素晴らしいものになったと感じた。これだけ原作を損なわず、なおかつ映像化することで人物描写や戦時の疑似体験を可能にして作品のテーマを昇華していると言える。
こうの史代、片渕須直、そして何と言っても能年玲奈。これらコラボによって今作がちょっと奇跡的な仕上がりになったが、その最大の理由は能年ちゃんがすずを演じたことに他ならない。自分がそう感じられることに感謝したくもある。
メタ的にも彼女以外はプロの声優たちであり、それが呉でのすずの立場に相似する。しかしそこで寄り添えるかどうかに関わらず、声優然としていない能年ちゃんの演技がなければアニメ版のすずはあれほどに魅力的では無かっただろう。可笑しくて悲しくて、凡庸でありながらときにたくましく、また弱さを見せるが内面には激しさがある。
それにしても今作は実際のところとんでもなく情報量が多い。
原作の上中下3巻をほぼ網羅した内容で、そのテンポ感が娯楽性に寄与している。それでもしっかり染み入ってくるのは細かな配慮があるからだろう。それは片渕須直の力量であるのだが、あの原爆投下の描写はこうの史代の原作マンガが極めて優れていたので映像化するとあの素晴らしさは失われる。あえてリアルに描いたのは今作で一貫している戦闘シーンの精緻さと整合しているので何の問題もないが。
まあとにかく泣けました。頭が痛くなるくらいに泣けました。多くは語られなかったが最後に見えてくるリンの物語や、あの孤児の成長など、これでもかとたたみかける126分。再度観るときは音響の良いところを選びたい。