劇場公開日 2016年11月23日

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「脚本が悪い」ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0脚本が悪い

2016年11月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

3D 吹き替え版を鑑賞。2011 年に終結したハリーポッターシリーズの続編ということだが,時代設定は 1920 年代に遡っているので,続編というよりはスピンオフと言った方が良いだろう。新シリーズとして5部作になる予定だという。物語的には,ほとんど旧シリーズとの繋がりはないので,旧シリーズを全く見ていない人も楽しめるようになっている。

映像は,ファンの期待を裏切らないもので,魔法のエフェクトなどはしっかり旧シリーズを踏襲しており,1920 年代のニューヨークの風景の再現等も見事であった。様々な魔獣の映像表現も見事なもので,それぞれ生態等がリアルに描かれていたのには感心したが,デザインの統一性に欠け,おもちゃ箱をひっくり返したような雑然とした世界になってしまっていたのはあまり感心しなかった。

脚本は,原作者の J. K. ローリングが自ら当たっている。これは旧シリーズでもなかったことで,初の脚本担当ということになるらしい。結果的に,この起用は失敗だったのではないかと思う。自分のアイデアを映像化することが面白くて,それに執着しているだけで,肝心の観客への事情説明や人間関係の変化などが極めていい加減であった。それぞれの魔獣の習性やタブーなど,全ての決まり事は当該イベントの発生直前か事後に簡単に説明されるだけであり,見ている方の疎外感は半端なかった。登場人物の関係変化などは完全に説明不足で,互いの恋愛感情など,いつ芽生えたのかと戸惑うばかりであった。また,旧シリーズで「マグル」と呼んでいた魔法の使えない人間を「ノー・マジ」と言い換えていたが,明らかに No Magic を連想させる薄っぺらい呼称に,アメリカ文化を下に見ている英国人の視線を感じずにはいられなかった。

主演俳優をアカデミー俳優のエディ・レッドメインが演じていたが,終始同じような表情を見せるだけで,全く一本調子の演技だったのには非常に落胆した。これなら何も彼を起用するまでもないのではと思われた。むしろ,印象的だったのはサブキャラのパン屋の方で,今後のシリーズでレギュラー化するのかどうかは分からないが,立ち位置的には旧シリーズのロンに相当するのだろう。でも,魔法が使えないのでは,活躍も限定的なものになりそうな気がする。また,ハーマイオニーに相当するキャラが不在なのが決定的に物足りない。ただ,敵キャラが正体を晒す時に某超有名俳優に変貌するのは嬉しいサプライズであった。

音楽はジョン・ウィリアムスではなく,ベテランのジェームズ・ニュートン・ハワードに代わっていたが,旧作のテーマを引用しながら圧巻のサウンドを聴かせる腕前には惚れ惚れした。旧シリーズでも,ウィリアムスが直接手がけたのは最初の3作品だけであったので,むしろ嬉しい収穫と言うべきだったと思う。

演出は旧作の「不死鳥の騎士団」以降でずっと監督を務めて来たデヴィッド・イェーツだけあって,雰囲気はシームレスに繋がっていると感じられたが,とにかく話があまり面白くないのが致命的だと思った。歴史を誇る英国ならまだどこかに魔法というフィクションの成立する可能性が感じられたが,アメリカに魔法は全く似合わないと思った。魔獣の使い手と名乗っている割には,魔獣相手に素人のように慌てるだけで,全く専門家らしさがないというのも何だかなであった。かなり,肩すかしを食らわされたというのが率直な感想である。
(映像5+脚本3+役者3+音楽5+演出4)×4= 80 点。

アラ古希