「聡がヤバすぎる」オーバー・フェンス kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
聡がヤバすぎる
とにかく、聡のインパクトが強かった!痛々しくて悲しくて気持ち悪い。
執拗な鳥のモノマネや幸福の絶頂から一気に絶望と憤怒の色に豹変する眼差しとか、聡の強烈な行動を見ていると、
「なんという孤独で寄る辺のない、愛を求めても決して得られない世界に聡は生きているのだろうか」
という彼女の生き辛さに思いを馳せます。
しかし、同時に、
「マジでこんなボーダー女に関わったら一巻の終わりだわ、クワバラクワバラ」
って気持ちが沸きました。
人として付き合うには、聡は百害あって一利なしの最悪なタイプです。
動物園の柵を開けまくる聡が逃げないハクトウワシを見て、「なんで逃げないの!」と叫ぶシーンは特に悲しかった。聡には柵の外の世界なんて実はないし、その無情な現実を象徴しているようにも思えて苦しかった。
その夜に白岩が見た家にやってきたハクトウワシは彼の幻だろう。ハクトウワシははばたくことはない。この作品で聡は永遠に無間地獄を彷徨い続け、成長できないのだから。
ラストも意外としんどかった。爽やかに終わったけど、あの後はどうせ白岩と聡はなんかのきっかけですぐ修羅場を迎えてグチャグチャになるのは明らか。一見ハッピーエンド風だがなんも変わらず堂々巡りだよなぁ、なんて感じました。
もうちょい聡の背景を描いてくれたら、とか思いましたが、離れに住んでるとはいえガラスが割れて男と怒鳴りあっても、家族が誰ひとり介入してこない家に育ったんだな、ってことは解りました。離れのキッチンで行水するところを見ると母屋には一切近づいていないんだろうな。家族の断絶を感じます。
聡もつらいけど、森くんもキツかった!数少ないセリフで精神的に母親の支配下にあることがわかる森くん。訓練校を辞めさせられたあと、一瞬母親と買い物をしているシーンが映ったが、胸が抉られました。正直、この1秒くらいの場面が本作品中で一番印象に残っています。彼も自分の人生を生きられないんだよね。
白岩はしょうもないヤツだな、という感想です。元妻を追い詰めたとか言って自己憐憫に酔っているだけ。あの調子では仕事も自分と向かい合うのが怖くて多忙に逃げてたクチだな、って想像できます。
まぁ元妻の前で泣けたのは良かったね。この時、元妻との関係に区切りをつけ、成長して前に進めるかと思いきや!相手が聡じゃ消耗するだけ。なにせ直後に聡が車でストーキングしているホラーシーンが入ってくる訳だから。
登場人物がぜんぜん成長しない作品であります。
その意味では好みの物語ではなかったのですが、登場人物を長々と考察できる、とっても観応えのある映画でした!
演者はみな最高。蒼井優は天才ですな。
★追記 (10/9)
どうやら原作では、聡はあんな境界例ではないようだ。
白岩の成長を描くことに焦点を当てたのであれば、キャラ改変は失敗だったと言わざるを得ないが、映画を刺激的にしたかったのであれば改変は成功だったと思う。
コメントありがとうございます。
エンディング後も変化なく同じグダグダの繰り返しと思われるのにもかかわらず、オーバーフェンスとはこれ如何に?という疑問は私も感じました。
私は、原作の聡はボーダーではないのに映画ではボーダーに改編されたため、オーバーフェンスじゃないエンディングになったのでは、と思っています。原作ではおそらく2人の関係は前進させることができるかその兆しを感じることができるエンディングだったのではないか、と推察します。つまり、原作はオーバーフェンスなエンディングだった可能性が考えられます。
lupinさんの仰るように、ただ生きている人へのちゃんと生きなさいよ、というメッセージもあるかも、と思います。むしろそのメッセージは人間への無条件の愛情が感じられて、素敵だな、と感じました。
ダラダラと見てしまう映画。私は公立の中学時代と地方勤務での夜の街で働く女性達を思い出しました。
ターゲットはただ生きている人達だと思うので、あまり私には刺さらない(最近は少し、「ただ生きるだけ」というセリフに共感できるようになりましたが)映画でしたが、現実感はとても高く、あいつこんな感じで生きているのかな?とか、私も道が違えばこんな感じで生きているのかな?と思いにふけりながら、最後まで見れました。
どうしようもない人達を描いた映画だけど、サトシをみて、ホームランを打つというシーンが、映画の題名にもなっているので、愛を伝えたかったのかなと。
ただ、他の人も考察しているように、どうせボーダーの女と頑張りの効かない男との関係なので、ラストシーンの後も、同じことの繰り返しが想像できてしまいます。だのに最後のシーンと題名がオーバー・フェンスなのは、スッキリとしなかったです。
この監督の人生観なんですかね。あのホームランは、私が感じるには「ただ生きているだけでも青空は気持ちよく、ちょっと努力すれば喜びは生まれるもんなんだ」ちゅう風に感じました。ただ生きているだけの人へのちゃんと生きなさいよっていうメッセージなんですかね?