「普通という無意識の加害者。」オーバー・フェンス lylycoさんの映画レビュー(感想・評価)
普通という無意識の加害者。
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自分はそうじゃないと言い切るのは難しい。ぶっ壊れている他人を見て、見下したり、憐れんだり、無関係だと思ったり、わかった風に優しくしてみたりする。けれども、そういう自分はただ普通なわけではなく、他人にストレスを転嫁してぶっ壊す側の人間なのかもしれない。それも徹底して無自覚に。そういう怖さに気付かされる。
白岩がまだ本当には当事者意識を持てていないと感じた聡が、動物園の檻を解放して回る。聡の願いも虚しく檻から出ようとしなかった白頭鷲は「死んだように生きる」ことしかできない自分自身、あるいは、自分の檻から出ようとしない白岩でもある。であれば、窓辺に現れた白頭鷲の幻は聡の未来を暗示しているとも、白岩の心の変化の表れであるとも取れる。
タイトルはラストそのままだけれど、このフェンスは動物園の檻や、白岩が普通という言葉で無意識に引いてきた境界線や、聡が周囲との間に感じてきた壁のことでもあるだろう。あのとき聡を見つけた白岩が放ったホームランは、そのままふたりの未来の暗示だろう。函館3部作の中ではいちばんストレートに希望が描かれていて、個人的にはいちばんグッときた。
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