劇場公開日 2016年4月29日

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「リアリティに欠ける」追憶の森 森泉涼一さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5リアリティに欠ける

2016年5月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

アーサー(マシュー・マコノヒー)が自殺場所を求めたどり着いたのは日本の青木ヶ原樹海。そこで日本人のタクミ(渡辺謙)と出会い森を彷徨う訳だが、当初の死に場所を求めるといった目的はこの出会いで早々と消える。いつの間にか出口を探すといった逆の目的になっているのにもこの冒頭では違和感を感じる。
アーサーがなぜ日本の青木ヶ原樹海を選択したのかも不透明。ここでなければいけなかったという明確な答えもないまま物語は進むが、これに関しては日本人にとっては母国が舞台という面で親近感がわくかもしれないが、それにしてもいくら自殺の名所だからといってここを選んだことには理解し難い。
アーサーがなぜ自殺をしようと決意したのかは、後に妻であるジョーン(ナオミ・ワッツ)が登場してから彼女との結婚生活で明らかになってくる。順風満帆とはいかない生活だが細かい描写はほとんどなくシンプルな結婚生活を描いている。ここで本作のテーマが徐々に露わになってくると森で彷徨う二人の見方も少しは変わってくるのかもしれない。それにしても森で首を吊っている自殺者をみて驚きもしないことや崖から転落してどれだけ体がボロボロになろうとも歩き続ける姿を見ているとリアリティに欠け、テーマから外れているように見えるのには苦言を呈したい。
日米を代表する二人の役者が森で泥まみれになりながらの熱演が唯一の楽しみといっていいかもしれない。歳を感じさせない美貌を披露したナオミ・ワッツとの夫婦生活もいい歳した二人がひたすら罵倒しあっているのも面白味があるし、ただこれも含めて夫婦の絆が深いことを示してくれているのはガス・ヴァン・サント監督の人間味溢れる描写が顕著にでていたところか。

森泉涼一