「退屈な主人公」探偵ミタライの事件簿 星籠(せいろ)の海 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
退屈な主人公
お話しは面白いと思う。
一つの事件から、派生していく事件…いや、違うな。芋づる式に掘り起こされる事件。
ただ主人公が、悩まない。
苦悩しない。
恐ろしい程の天才な設定なのである。
「あ」という文字をみただけで、日本という国の起源にまで遡れる程の。
故に凡人である僕らには分からない事が多い。
何をきっかけにその推理を組み立てたのか?
何を見て、点と点を線にしたのか?
それを調べようとなぜ思ったのか?
…詰まる所、全く共有できないのである。
主人公達と同じように、迷い僅かな隙間にある異物を発見する。
そんな楽しさがこの映画にはない。
僕らは経過の報告を聞いているようなものである。
故に、あらゆる解答にナゼが付きまとい、事件が全て解決したにも関わらず達成感はない。
主人公自体、事件の一報から組み立てた自分の推理の裏付けをとっていっているようで、結果「やっぱりそうだったな」という自己満足な呟きが聞こえてきそうである。
脳科学者故のイニシアチブもなかったように見受けられるし、何よりこの主人公は退屈なんだろうなと考えてしまう。
彼の暇つぶしという衝動から、超難解な事件は解決されていく…。
なんというか、玉置さんの声のトーンも相まって、なんとも冷めた、無感動でつまらない主人公像であったなあ。
学会の期日がきたら、未解決でも「あ、もう時間だ。失敬。」とか言って帰っちゃいそうである。
凡人故の希望としては、主人公がナゼそうしたか、そう思ったのかの解説が随所にあれば、また違った感想にもなったように思う。
「危険ドラックの過剰摂取によって倒れた女性」
その捜査時に
なぜ、タバコの吸い殻を眺めたのか?
なぜ、風呂場を確認する必要があったのか?
二段ベッドの布団をまさぐったのはなぜか?
5分経ったら…なぜ5分なのか?
つまりは、あの現場と状況の何から推測して、死体処理班が間もなくやってくるであろう事が推測出来たのか?
それらの必然が観客にほのかにでも伝わっていれば、違うんだと思う。
そして、死後硬直まで表現した死体の膝がいとも容易く曲ってしまう嘘はいただけない。