「映画自体は長い論述」二重生活 レインオさんの映画レビュー(感想・評価)
映画自体は長い論述
映画自体は論述のプロセスみたいなもの、主張は最後女主人公のナレーションで提示される。
全体的に何を伝えようとしてるかというと、最後の一言二言だろう。二重生活とは、簡単に人は誰でも表裏があるとのことだろう。実に誰も分かるような当たり前すぎること。一方、映画はいつも様々なテーマで同じことを言う。当然な事も。
ここで特に興味深いのはその「論述方法」であり、すなわち映画の題材と全体の物語展開である。
女主人公の白石珠は哲学系の修論を書くため人間観察(=尾行)を行う。彼女は何を論じたいかというと、「現代日本における実存とは何か」。が、映画で起こった全てを見れば、むしろ「人間とはなにか」という問いの回答を求めているような..日本社会とあんまり関係なく、しかも文系って哲学って修論ってこれ本当ありかーとツッコミたくなる。
が、この映画の物語はこれで実に斬新であるー 尾行行為はいつも人にハラハラさせる。観客は主人公と同じ視角で他人の秘密を覗き見するのも同じ。特にカメラはいつも揺れ続けてそのためちょっと気持ち悪くなるけど、臨場感の効果も抜群。しかも窃視するのは映画観客一般であるから、暗い映画館でその効果も倍増!
また映画後半は前半よりかなり優れてる。後半にこの映画の鍵があるとも言えるだろう。後半の糸で前半を考えれば、全ての出来事はこの長い論述の根拠を提供する。
例えば、ゴミをちゃんと出さない人。
長谷川さん演じる編集者の一言で人の書いたものを削ること。浮気すること。
主人公の彼氏が書いた漫画の修正を要求されること(ゲームデザインの設定も面白いー
嘘をついたこと。
誰も表裏あり、現象の裏に本質が隠れる。
哲学研究の白石は尾行を通じその本質を探求し、人間の裏を見ようとする人。もし日常だけに執着すればまた楽だが、重い過去を持つ彼女はそういう自分までを捨て、彼氏と別れ、本質にこだわってる。
最後に感じられるのは、やはり二重生活には、人間は心が満たされる方法を探している。日常生活ぐらいでは満足のは、表の自分。心がまた寂しくなるとまた普段と別のことから求める。誰にでも心に暗いとこがある。ーーが、どう考えるかは重要だと思う。宗教もそうだろう。何かを信じる(神様がいるとか)ことで、心の片隅を照らす。虚しい感情があるからこそ何かに託す。
論文というきっかけもどうかなーと思うし、好都合の所もあり、主張もちゃんと最後で出さないと人に曖昧な気持ちを与えるかも。が、結構論文のような充実な映画ではある。