「国境を超えた橋の向こうには…」ブリッジ・オブ・スパイ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
国境を超えた橋の向こうには…
一月も半ば過ぎたけど、新年最初の劇場鑑賞は、監督スピルバーグ×脚本コーエン兄弟×主演トム・ハンクスというお年玉級の豪華コラボ作。
冷戦時代、互いの国に捕らえられたソ連スパイと米パイロットの交換交渉に挑んだ弁護士の実話。
「世界仰天ニュース」か「アンビリバボー」か、歴史に埋もれた逸話。
前半は控え目ながらもソ連スパイ、アベルの逮捕とドノヴァンが弁護を引き受ける過程を丹念に、重大な任を背負いドノヴァンが東ベルリンに赴く後半はスリリングに、米軍機撃墜のスペクタクル、最後は和平への祈りを込めて後味良く、充実の社会派エンタメに仕上げたスピルバーグ演出は文句の付けようが無い。
一見固そうな題材を、巧みな展開と際立つ人物描写とちょいちょいのユーモアで表した脚本は、コーエン兄弟だからこそ。
142分飽きさせない…と言うより、つまらない訳がない。
言うまでもなく、トム・ハンクスは巧い。
ごく普通の弁護士が重大任務に挑む苦悩と信念を、人間味豊かに魅せる。
トム以上に大金星は、マーク・ライランスだろう。
しょぼくれた風貌はとてもスパイには見えないが(と言うかあんなカッコいい某スパイ居やしないけど)、哀愁漂う佇まいは画になる。
彼が自身の体験を踏まえドノヴァンに贈る言葉“不屈の男”には胸打たれる。
非の打ち所が無い名演。
(でもオスカーはスタローンは応援している、ゴメン…)
米ソ冷戦、資本主義対共産主義…と言われてもあまりピンと来ないのが本音。
結局は国と国の都合の争いで、民間人はその巻き添えを食う。
強引に敵国スパイの弁護を引き受けさせられ、世間から批判の眼差し。
東ベルリンへの赴きは命の安全も国の保証もナシ。
何故こんな危ない橋を渡る?
敵国だろうとスパイだろうと法の前では一人の人間。公正な裁判を受ける権利がある。
事務処理的に有罪を決めようとする国への訴え。
米パイロットと交換という当初の目的に、突然米留学生逮捕の報せ。
米パイロットだけに固執し留学生は切り捨てようとする国に、二人の救出を実現させようと奔走する正義。
クライマックス、アベルはドノヴァンにある贈り物をする。
アベルの目にははっきりと映っていたのだ。
国境という橋を超えた、“不屈の男”の姿が。
新年一発目から良作!
と言うか今年は1月2月だけでも、スピルバーグ「ブリッジ・オブ・スパイ」、ギレルモ・デル・トロ「クリムゾン・ピーク」、ロン・ハワード「白鯨との闘い」、ロバート・ゼメキス「ザ・ウォーク」、リドリー・スコット「オデッセイ」、タランティーノ「ヘイトフル・エイト」などなどなど名匠たちの豊作ラッシュ!