クーキー : インタビュー
オスカー監督ヤン・スベラーク、実写とパペット融合させた人形劇「クーキー」で見るリアルな自然界
甘えん坊のへなちょこテディベアが、大好きな持ち主のもとに帰るため冒険に出る――オスカー受賞歴を誇るチェコのヤン・スベラーク監督が、息子オンジェイ・スベラークら役者とパペットの演技で、アニメでもCGでもない新たなファンタジー「クーキー」を紡ぐ。(取材・文・写真/編集部)
少年オンドラとクーキーは幼いころから遊んできた仲良しだが、オンドラのぜん息悪化を懸念した母親によって、古くなったクーキーは捨てられてしまう。ところがクーキーは、ゴミ捨て場で突然動き出し、オンドラの待つ家を目指す。
本作は、クーキーの冒険を通して見つめた少年の成長記だ。出発点は、若いころから映画製作に携わってきたスベラーク監督の「映画を撮る度に家族と離れて生活しなければならず、(3人いる子どものうち)ふたりはあっという間に成長してしまったので、オンドラはしっかりと成長を見届けようと思ったんです。そうして一緒に遊ぶなかで、オンドラを通じ自分の子ども時代をもう一度訪れてみたいと考えるようになったのです」という思いにあった。
スベラーク監督は自らの思い出や体験を反映させ、「もともと、自然のなかで人間界よりもっと小さい世界を描いてみたいという夢がありました」と実写とパペットを融合させたファンタジックな物語として組み立てた。
当初、6人チームによる30日の撮影が予定されていたが、森や人形のリアルな動きへのこだわりから、最初の20分しかできあがらず撮影は暗礁に乗り上げる。その後、「資金を集めてクルーを増やし、1年後に再会してさらに70日間撮影したんです」と60人を越える大所帯で撮影日数100日という大規模なものとなったが、苦労の甲斐あって、スクリーンでは生き生きと息づくパペットたちを見ることができる。
「人形劇を実写で撮るというスタイルは、これまでなかったので参考にできる作品がありませんでした。普通の人形劇はストップモーションのアニメで撮影しますが、今回は風や光など常に条件が変わる外界で撮影しているので、ストップモーションが採用できず、ワイヤーなどをつけた操り人形をスローモーションで撮影しました。普通1秒24コマのところ、この作品は48コマで撮影しています。みなさんが見る映像は、実はスローモーション映像なんです。そうすることで、人形の視点に立ったときに重量感が出て、動きのひとつひとつにも今生きているような感覚を作り出すことができました」
冒険の舞台となる森、クーキーが出会う精霊たちなど、自然がキーワードのひとつとなっている。「リアルな自然界」にこだわり、「オンジェイと一緒にディズニーアニメなどたくさん見てきましたが、そこで描かれる自然はただただキレイなポストカードのようでした。自然は我々にとって重要なもので、森の精霊だったり静けさだったり、自然界のハーモニーやバランスは癒しを与えてくれます。我々自身も本来は自然の一部なのです。そこに立ち戻ってこういう作品を撮ってみたいと思いました」と厳しさも秘めた森の姿をとらえた。
「子どもたちに自然という世界を再発見してもらいたいです。コンピューターゲームで遊ぶのではなく、外に出ていろいろな発見をしながら遊んでほしい。大人には、もう一度子ども時代を訪れるチャンスになればと思っています。それぞれのおもちゃ箱を開けてもらうきっかけになればうれしいです。子ども時代というものは、人間にとってすごく大事な時期だと思うのです」
子ども時代の記憶を大事にするスベラーク監督は、チェコを代表する脚本家で俳優の父ズデニェク・スベラークのもとで育った。ズデニェクは「コーリャ 愛のプラハ」「ダーク・ブルー」などでもタッグを組んでおり、スベラーク監督の作品になくてはならない存在で、本作ではクーキーを助ける村長の声を担当。親子3世代での作品づくりが実現した。
しかし、スベラーク監督は映画界で成功を収めたズデニェクを見て育ったため、父親とは異なる道を進もうと、アニメーション作家を志していたという。そんななか、大学卒業直後に父が脚本を手がけた映画「Obecna skola」の監督を引き受けたことが、スベラーク監督の転機となった。「ひとつ作品をやってみて、そのあとは別のジャンルで自分のキャリアを築けばいい」という気持ちだったが、24歳にしてアカデミー賞にノミネートされる。
「父と一緒にプレスツアーに出たことで、かなりの時間を一緒に過ごせ、親子のきずなが強く結ばれました。親子としてだけでなく、友人にもなれると気付いたんです。父と仕事をして20年になりますが、周囲からうらやましがられるとてもいい関係になれ、うれしいです。私もこういったきずなを息子と築きたいと思い、今回息子にも参加してもらいました」
オスカーを受賞するドラマからファンタジー、新作で見せるミュージカル、今後はブラックユーモアあふれるドラマ、エロティックなSF作品も撮影したいという。さまざまなジャンルに挑む原動力はどこにあるのだろうか。「好奇心とチャレンジ精神です。新しいおもちゃで遊んで、見解を試してみる。すでにやったゲームはそれでいいので、常に新しいことに挑戦していきたいと思っています」