「やるせなさ、やりきれなさを残しながらも、止まっていた時が再び動き出す」64 ロクヨン 後編 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
やるせなさ、やりきれなさを残しながらも、止まっていた時が再び動き出す
横山秀夫の大ベストセラー小説の映画化後編。
前編は64事件に関わった人々の現在のドラマをじっくり描き基盤を充分固めた所で模倣事件が発生、いよいよ事件が大きく動き出す…というイイ所で終わったので、期待値が上がらない訳がない。
で、率直な感想は…
期待を煽ったほどではなかったにせよ、一定の見応えであった。
開幕からテンポアップで一気に見せるのかと思いきや、相変わらずのスローペースで序盤はちょっとタルく、詳細な情報を教えろ!とギャーギャー野次を飛ばすマスコミに苛々。
三上が捜査車両に同乗した辺りから引き込まれ始めた。
で、ここからいい意味で期待を裏切られた。
ん?と思ったアノ人とアノ娘のシーン、模倣事件の意外な顛末、「我々は64事件を追っている!」の台詞…。
実はこの模倣事件の水面下で64事件も同時に動き、そして犯人も…!
見ている側にとっても劇中の三上にとっても突然の急展開。
謎や犯人が一つずつ一つずつ解き明かされていくのかと思ったら、なるほど、こう来たか!
犯人をじわじわ追い詰め、遂に迎えた犯人と三上の対峙…。
なので、ミステリーの醍醐味には少々欠け、ハラハラドキドキのスリルも今一つ盛り上がらない。
警察の隠蔽も、「相棒」のようにもっとこう、後味悪く響くものには感じられなかった。
そして犯人の動機。
ここが一番拍子抜けと言うか残念だったが、三上に動機を問われた時の犯人の台詞には憤りを感じた。
幼い少女の命を奪ったキ○ガイの動機など、意味も理由も無いに等しいのだ。
前編後編合わせて見て感じたのは、ミステリーとしてのエンタメ性より、事件を抱え込んだ人々の悲しく苦しい人間ドラマがやはりベースという事。
特にアノ人の傷は深い。
この人がどうやって犯人を知ったか、その特定に至るまでは本作品でも最も胸を掻きむしられた点であった。
また、この人が取った行為。
そうするしか無かったのだろうか。
気持ちは分かる。
自分には子供は居ないが、もし自分の子が殺されたでもしたら、死刑なんかより、同じ苦しみを味わせてやりたいと思う。
警察なんか信用出来ない、自分の手で。
実際犯人はもがき苦しんだ。
が、それは決してやってはいけない事だという事も知っている。
法に触れるというより、それは憎き犯人がやった事と全く同じであり、あの悲しみに苦しむ犯人の姿はあの時の自分だ。
だから一層、この人が抱え込んだ傷は深い。
事件は解決した。が、
ある不祥事を起こしてしまった三上、犯人家族の今後の境遇…。
誰にとってもやるせない、やりきれない凝りを残して。
しかし、
罪を認め自ら出頭するアノ人とその協力者。
三上の失踪した娘。最後の電話はきっと…。
多くの人を傷付け、時を止めた“64”。
彼らの止まっていた時が、また動き出す…。
個人的には昨年の2部作ミステリー「ソロモンの偽証」には及ばなかったものの、見応えあった。
邦画最近流行りの2部作は安直な漫画実写などではなく、こういう作品に限る。
※訂正
観た時は前編と同じ4採点を付けたが、一晩またじっくり考え、他の4採点の作品とのバランスを考え、3.5に訂正。
前編後編通してでは、変わらず4採点で。