「見渡せば、変なヤツばっかり」ヒメアノ~ル どうか夢だと言ってくれ!さんの映画レビュー(感想・評価)
見渡せば、変なヤツばっかり
映画が始まるや否やオカシな人間ばかりが登場する。とにかくみんなオカシい。…では現実世界でオカシくない人間(自分も含めて)がどれだけいるかと聞かれたら、ウムと唸るしかない。しかし、やはりこれだけ次々と変な人物や、予想に反した行動を見せられると、かなり不安になる。実際、僕は始めの30分ほどで一度挫折した。これはキツイな、と。
だが、数日するとなぜか(たぶん変な人物中毒で)続きが観たくなり、残り約1時間を完走した。
現実にいながら現実の時間を生きていない人は確かにいる。過去にとらわれて苦悩する者や未来を不安に思っていたたまれない思いで暮らしている人は多い。同じように、辛すぎる現実から逃避して架空の時間軸で生きている者もいるかもしれない。彼にとって現実の縛りは意味がない。法律も他人の感情も彼を縛ることはできない。ウソも殺人も気に掛けることがない。ただ彼を不快にさせる者の口をふさぐ--いや、そんな理屈も実は存在しない--ことだけで生きている。
そのような者が存在すると思うだけでゾッとする。その感覚を体感できる映画だ。実におぞましい。残虐な行為に理由があるのならまだ理解もできるだろうが、はっきりとした理由はほぼない。自分の行為を隠すため、自分のちょっとした不快感を取り除くためという理由は、人を殺し続けることの動機としては弱すぎる。
でもそれを易々とやってしまう人物。現実にいたら本当に恐ろしいが、彼が現実逃避による架空の時間軸を生きているのだとしたら、殺された人々がますます救われようがない。
映画はこのような連続殺人犯(というか無差別殺人魔)の森田くんを背景として、昔の友達だった岡田くんの地獄のような日々が延々と綴られていく。本来なら歓びであるべきことまで人間関係のせいで苦しみになるという、思い返せば自分も経験したことのあるような。しかもその人間関係の相手が「いつもの感じのムロツヨシ」みたいな職場の先輩だったとしたら。あ〜、地獄だ。
最終的に森田くんは「おかあさんの麦茶」によって本来の時間軸(もう存在していない)に戻るわけだが、彼が死んでいない以上、本当に終わりなのか続きがあるのか、気になるところではある。