「微妙」ヒメアノ~ル ともこさんの映画レビュー(感想・評価)
微妙
映画だけ見れば、これはこれで納得するし良いラストだとも思う。
でも、原作で古谷実が描きたかったであろうものとはズレがあるので、原作好きとしては少し微妙。
原作のラストでは、森田が学生時代に自分が「普通」じゃないことに気づいて愕然とするシーンが大きく描かれていて、当時のことを思い出しながら涙する森田に対し警察官が「なんだお前泣いてんのか?」のセリフで終わる。
つまり、森田が狂気の犯罪に走ったのは生まれながらのサイコパスだからであって、いじめは関係ない。
映画の中でも、高校の時のいじめっこを殺しながらエクスタシーに達している森田が描かれている。つまり生まれつきのサイコパスで人が苦しむ姿を見てエクスタシーを得てしまう森田が、たまたまいじめっこを殺したことでその欲望に歯止めが効かなくなったというのが話の本質。
岡田と居酒屋に行ったときに「努力できるやつとは生まれつき土台が違う」的なことを言うのも、それを匂わせているシーンだと思う。(古谷実の作品にはこの手の「生まれながらの差違」をテーマにしたものが多いと思う)
なのに映画のラストでは、いじめが原因で心優しい青年が豹変してしまったと言わんばかりで、ちょっとそこに違和感。
実際いじめられてもあのホテルの息子みたいに細々と真面目に暮らしていくのが普通だと思う。
死体の横で平然とカレーを食べられるのはサイコパスだからこそ。
そして森田自身が、自分がサイコパスに生まれてしまったことに苦悩するというのが原作の本筋だと思うし、映画でもその部分をどう描くのか観たいと思っていたので、このラストには少しガッカリ。
まぁいじめをなくそうというメッセージにはなるので、これはこれで良いのかも知れないけど。