「力作だけれど、チャーミングには程遠いなぁ」ラ・ラ・ランド りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
力作だけれど、チャーミングには程遠いなぁ
ゴールデングローブ賞7部門受賞、アカデミー賞13部門ノミネートと前評判の高い作品。「観るもの全てが恋に落ちる・・・」という謳い文句も刺激的なこの一篇。
米国ロサンゼルス。
冬でも雪など降らないこの町に、女優を目指すミア(エマ・ストーン)と、自分の店を持ちたいジャズピアニストのセブ(ライアン・ゴズリング)がいた。
大渋滞のハイウェイですれ違ったふたりは、オーディションに落ちたミアが、ピアノの音色に惹かれて立ち寄った店で再会する。
けれど、セブは店主(J・K・シモンズ)から馘首を言い渡された直後だった。
その夜はクリスマスイヴ・・・
というところから始まる物語で、一言でいえば、ボーイ・ミーツ・ガールもののミュージカル。
そういう意味では、目新しところなど、まるでない。
いや、逆に、ボーイ・ミーツ・ガールの単純物語をミュージカルで魅せようという心意気や良し・・・といいたいところだが、どうにも気勢が上がらない。
成功していないジャズメンと目玉の大きい女優の出逢いの物語。
これって、マーティン・スコセッシ監督『ニューヨーク・ニューヨーク』と同じ設定じゃないの。
あちらはサックス奏者(ロバート・デ・ニーロ)と歌手(ライザ・ミネリ)だったが、こちらはピアノマンとアクトレス。
それに、男性は、どちらかというと陰気なタイプ(失礼、ライアン・ゴズリング)だし、女性は(というか演じている女優は)過去に『キャバレー』の主役を演じている。
すぐには気づかなかったけれど、妙に似通ったところがあることに気づいたのは30分ぐらいしてから。
とすると、どちらか一方が成功して、ふたりは別れて、そして、その後再会して、幸せな日々を送るが、やはりうまくいかなくて別れてしまう、という物語になるのではありますまいか。
そう思い観ていた。
けれど、異様なほど、物語が展開しない。
ミアとセブが、くっつきそうでくっつかない。
ちょっとした障壁やすれ違いで、そうなるのだ。
これは、大昔のMGMミュージカルでも結構あったパターン。
けれども、他愛なく素軽いMGMミュージカルと異なり、演出はいたって鈍重。
笑いを誘う映画じゃないのね。
なんて思っていると、ふたりはくっつき、一方が成功して、蜜月は短い、てな話になる。
やっぱり『ニューヨーク・ニューヨーク』か。
とも思うが、すでに、ここいらあたりで尺の4分の3ぐらいを消化している。
でね・・・
ここからはネタバレ。
何度も引き合いに出して申し訳ないが『ニューヨーク・ニューヨーク』の「そのが再会して」で、幕切れ。
おいおい、そうなの。
たしかに、その後の物語を描いても、単に重苦しいだけの映画になるのだから、「ここで終わり」とするのもいいだろう。
そこに達成されなかった幸せな日々を、ジャズミュージックに乗せて一気に描くという手法を持ってくれば、ハリウッドの映画人は驚くだろうし、「やられた」と思うだろう。
良くいえば、『巴里のアメリカ人』のクライマックスのジャズ版みたいな感じとも言えなくもないが、この手法、『チキンとプラム』や他の映画ですでに用いられている。
ビジネスでの成功は、決して愛の成功ではないというビターな終わりなのかもしれないが、これならば『ニューヨーク・ニューヨーク』の方を上に取る。
オープニングのハイウェイでの群舞のシーンもすごいし、エマ・ストーンとライアン・ゴズリングの歌も踊りも演奏もすごいのだが、踊りのシーンはフワフワしたカメラで腰が据わらないし、背景のCG加工などがうざったい。
特に、オープニング、あたかもワンカットで撮っているように、かつ、ハイウェイの奥まで群舞が続くように見えるが、意外とカット割っていたりしているのもわかちゃう。
ダンスシーンなんか、クレーンでカメラを持ち上げたり、背景をCG加工しなくてもいいのに。
せっかくの演者の魅力が削がれてしまう。
そうそう、それに、楽曲がやはりブルージャズ主体なので、気軽に口ずさめないのも難点。
セブを馘首するJ・K・シモンズがいう台詞、「ブルージャズは絶対だめだ」。
残念ながら、力作だけれど、恋に落ちなかったよ。