「数珠繋ぎの執着心」イット・フォローズ KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
数珠繋ぎの執着心
しっかりホラーなのにホラーを観ている気分にならない、新感覚な作品だった。
大筋は単純ながら、描写の濃い部分とサラッとしか触れられない部分のギャップが大きい。
意味や解釈を考えながら観るので面白かったけど若干疲れた。
完全な人間の姿でノソノソ歩いてついて来られる恐怖はなかなかリアルで精神的にキツい。
所謂普通の恐怖現象や霊障がバンバン起きるわけではないけど、実生活に置き換えると誰かに尾けられ狙われるってかなり恐ろしい状況だと思う。
様々な人間に化けて出るので、街行く人の誰が「それ」なのか分からないのが良い。
たびたび画面の隅っこに小さく歩く人影が映る演出がニクい。そしてそれに特に触れられなかったりすると余計に怖い。
思わせぶりなショットも多く、どこかに何かがいるんじゃないかと画面にグッと集中させらた。
「それ」の執着力の強い襲い方が好き。
人に移ったら素直に矛先を向け変えるくせに死んだら前の人にまた戻るなんて。
いくら先に移しても移しても、いつ自分に戻ってくるか知れない恐怖が一生続くなんて!
最初はどうやって始まったんだろう。最初の人まで戻り、その人が死んだら「それ」はどうなるんだろう。
そもそもなぜ性行為で移るんだろう…
数珠繋ぎの途中の話なのでフワッとしているけどその設定を芯を通して貫いているので、余白の部分を想像するのが楽しいと思える。
エイズや性感染症のメタファーなのかなとか、適当な気持ちで寝てしまうと碌なことにならないという教訓なのかなとか、色々考えられる。
同時進行の胸がキュッと締まる青春模様も面白かった。
ポールの淡い恋愛感情の行方が好き。
ラスト、後ろの人影に目を背けてジェイの手を握る彼の選択には強い意志を感じた。
色んな意味でゾッとした。
人にうつすことも出来たのに。
ずっと想いを寄せていて、やっとのことで結ばれたジェイを裏切るような行為がどうしても出来なかったんだろうな。
ジェイもガードが緩いのにポールの真剣さを薄っすら分かっているので彼だけは適当に出来なかったし。
対称的な二人でそれぞれ最後までどこか噛み合わない感じがまたもどかしい。
幼馴染5人のそれぞれの親家族がほとんど出てこなかったのにはどんな意味があるんだろう。
ジェイが頼るのも妹と友達のみ。
大人を信用できない若者の象徴なのか、非現実的なものを頭ごなしに拒否してしまう大人への皮肉なのか。
時代設定も謎だった。
鮮やかな映像と画のつくりと人の撮り方がとても美しかった。
ただ、あまりにもみずみずしく描くので何かネチネチしたものも感じた。監督の欲望というか。
それこそ「それ」の執着心のような。