劇場公開日 2016年1月9日

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人生の約束 : インタビュー

2016年1月5日更新
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竹野内豊&江口洋介、対極の位置から体感した石橋冠の“温もり”

テレビドラマ界の巨匠で演出キャリア55年の石橋冠が映画監督に初挑戦した「人生の約束」は、富山県射水市の新湊曳山まつりを題材にしたオリジナル作品だ。今作に主演として迎えられたのは、石橋監督と初タッグとなった竹野内豊。一方、主人公と対極をなす重要な役どころを担ったのは、“石橋組門下生”の江口洋介。くしくも初共演となった2人が、富山で行われた撮影、石橋組で過ごした日々を振り返った。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)

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石橋監督の妻の実家があり“第2の故郷”と愛してやまない新湊が舞台となる同作は、江戸時代から約350年続く曳山まつりを題材に、本番までの日々のなかで不思議なエネルギーに突き動かされていく人々の姿を描いている。竹野内は会社の拡大にしか興味のなかったIT関連企業CEOでかつての親友の死をきっかけに人生を見つめ直していく中原祐馬、江口は祐馬の親友だった塩谷航平の義兄で新湊の漁師を束ねる渡辺鉄也に息吹を注ぎ込んだ。

石橋監督から「新湊に触れ、町の人に触れ、祭に触れた君が最後、どういう顔になるのか。僕はそれを撮りたいんだ」と伝えられたという竹野内は、「東京から富山に身ひとつで飛び込んでいって、現場に入った時には皆さん、現地になじんでいらして……。江口さんは、地元の方との見分けがつかなかったですよ(笑)。地元の漁師さん以上に漁師として私には写ったんです。どう立っていたらいいのか戸惑いは確かにありましたが、それがリアルでいいのかなと思いました」と笑みを浮かべる。

曳山まつりでは、祭に参加し曳山をひくことを「つながる」と表現する。東京育ちの竹野内にとっては、「つながる」ということが理解できなかったため「脚本をいただいて、冠さんと初めてお会いしたときに生意気にも『つながるっていうことが正直よくわからないんです』とストレートに聞いちゃったんです」。すると、石橋監督は事もなげに「俺にもわかんないよ、だからこの映画を作りたいと思ったんだ」と答えたという。「あの言葉は今でも忘れられませんね。私はいま40代ですが、この映画の奥深さというのは、きっと10年後、20年後には感じ方が変わってくるのでしょうね。この映画に参加できたこと、石橋組に参加できたことは今後、自分の財産になっていくように感じています」。

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WOWOWドラマ「なぜ君は絶望と闘えたのか」(2010)で石橋監督の演出を受けている江口は、今作で俳優人生約30年はおろか人生で初めての角刈りにして撮影に臨んだ。石橋組の魅力を、「『なぜ君は絶望と闘えたのか』は光市母子殺害事件を題材にしているのにドラマチックで、人を応援しているような作品になっていたんですよ。ドラマにかける石橋さんの熱意に引っ張られながら、完成した後に感じたことですけどね。自然に演出されているんですよ。場の空気みたいなものを作り上げる、僕たちには分からない独特の演出回路を持っておられるんです」と説明する。

あて書きされてオファーを受けた竹野内とは異なり、江口は「脳男」を富山で撮影中に企画構想を石橋監督の口から聞いていた。「奥さんの地元で撮りたいということで、(撮休の時に)一度遊びに行ったんですよ。漁師の役というのはなんとなく聞いていたんですが、祭を見に行ったときに竹野内くんが『IT企業の社長で、その対極にいる地の人間をやってもらえないか』とオファーをいただきました」。角刈りについては、「僕も東京出身ですから、色んな欲望に入り混じったなかで生きてきました(笑)。そういうものを全て捨てて、“つながり”みたいなものを大上段に構えてやらなければいけなかったので角刈りにしたんです。それに、冠さんの映画が何を言わんとするかを見たかったですし。漁師役として地方にずっといてっていう機会もなかなか経験できることじゃないから、『これは目いっぱいやってやれ!』と地元の人と酒を飲みながら、ママチャリで徘徊もしましたしね(笑)。土地を知っているという時間を、自分で作っていきました。冠さんに対する恩返しでもあるし、自分を選んでくれたということに対する感謝の気持ちを掘り下げていったんです。ただ、間違いなく泣けてあったかいものになるという予感だけはしたんですよね」と明かす。

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撮影は、3月から5月にかけて行われた。「初めて曳山を見たときは鳥肌が立った」という竹野内は、スタッフもそうそうたる面々が結集した石橋組の魅力を、五感すべてで感じ取ったようだ。「冠さんが曳山というか(笑)。『石橋組に参加する以上は我々のやり方の中でやってもらうよ』っていう圧力みたいなものは一切なくて、むしろ『全部合わせるからね』っていう、押し上げて支えてくれるような感じがしたんです」。隣で聞き入っていた江口も、「細かいことを言う人じゃないんですよ。すごく紳士で、穏やか。でも、『テイク1が一番いいんだから』と本番一発にかけていく。石橋組自体がエネルギーを持っているから、自然と体が動いちゃうんですよ。うーん、口では説明できないなあ」と強く同調する。

2人を軸とした今作には、西田敏行、ビートたけし、松坂桃李、優香、立川志の輔、小池栄子、室井滋、美保純、柄本明、市川実日子ら演技派がずらり結集した。新湊の地で、がっぷり四つに組んだ2人は役どころさながら、日を追うごとに交流を深めていったそうで、「祐馬が鉄也を殴る撮影の前日に飲みに行ったんですよ。色んなことをしゃべってさ、翌日の撮影のことも含めてね。祐馬と鉄也の関係が自然とできていってね、それも冠さんに演出されているんじゃないかと思いましたね。主人公なんだけど、異物が町に来たようにみんなで腫れ物に触るように接してね。竹野内くんが最後、曳山をひいたときにどういう風になるのかをみんなで楽しみにしていた。東京で撮影して毎日家に帰るようなスケジュールだったら、そうはならなかったんだろうけど、ずっと役のままでいるから。その時間も大きかったし、思い出深い富山での撮影でしたね」。

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クライマックスシーンの撮影で、実際に曳山と対峙し“つながった”竹野内は、「西田さん演じる玄さんの『そりゃ、つながってみねえとわかんねえなあ』というセリフがありましたが、木の温もりはもちろんなんですが、造詣そのものに圧巻されるものがあるし、人の熱量もある。だけど、やっぱり先祖代々から続く汗が木に染み込んでいるわけじゃないですか。そこに手をかけたとき、ぶわあーっと何かが見えてくるというか。うまく言えないんですが、すごく包み込まれた感じがしましたね」と穏やかな面持ちで語った。

共演を果たすまでの互いのイメージを、「熱い方だなというのは分かっていた。でも実際、お会いして本当に熱かった」(竹野内)、「『ビーチボーイズ』だよ! 夏の男って感じでさ! でも、時計とか持ち物を見ていると硬派で、実は頑固で男っぽい人なんだろうなと思っていたら、その通りだった。ずっと好きな俳優だったんですよ!」(江口)と明かし、筆者を吹き出させた。充実期に入ったからこそ、2人には今後もさらなる演技合戦を繰り広げてもらいたいと願ってやまない。

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