「こちらのロックスターは紳士です」Dearダニー 君へのうた aoiさんの映画レビュー(感想・評価)
こちらのロックスターは紳士です
ボヘミアン・ラプソディ、ロケット・マンのように、ロックスターの栄光の影の破綻した生活と孤独を扱う映画は多い。
影の精神的生活は凄惨だが、劇中音楽がかっこいいので、楽しく見られる。
さて、こちらは、音楽を聞かせる映画ではないので、アル・パチーノ演じるロックスターのキャラクターが魅力的。
こちらのロックスターは紳士です。
チャーミングで、ユーモアがあって、これだけ人格がしっかりしていれば、家庭生活も幸せにできたのではないのかと思うほど、紳士です。
ある日、元・音楽少年が、ジョン・レノンの直筆の手紙を、40年越しに受け取る。
それはもう、生活の破綻した億万長者ロックスターでなくても、
背筋を正して襟を掻き合わせて、ああ、生活、見直そう、と思うのではないだろうか。
ジョンからの手紙はシンプルなのに味があって、ぐっとくる。
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親愛なるダニー・コリンズ君
金持で有名になることで、
君の音楽は堕落しないだろう
堕落させるのは君自身だよ
君はどう考えるかな、ダニー・コリンズ君
君の若い音楽に忠実であれ
君自身に忠実であれ
電話番号を書いておく
直接話をしよう
力になるよ
ジョンより
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そして、中年ロックスター、ダニー・コリンズ君は、一念発起する。
田舎のホテルに滞在して、人生で一番後悔している人のもとへ向かう。
田舎のホテルの支配人との掛け合いが微笑ましい。
大人同士の交流は距離を保って、こうありたい。
一番、気に入ったシーンは、息子の妻とスターの会話。
スターは、絶縁していた息子の家を突然訪ねる。
息子は激怒して家に向かっている途中。
息子の妻と、息子の家のソファで、捨てた女の息子の帰りを待っている。
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妻:なぜここへ?
スター:生き方を、変えようと思って
妻:遅くない?
スター:遅すぎないことを願っている
妻:トムは理想の夫よ
十二年間で喧嘩は1度だけ
父親に会うのは断固拒否だったわ
スター:その、できれば君が、円滑油になってくれないか
妻:ミスター・コリンズ
この子の親族はあなただけ
夫にも父親を知ってほしい
でも私は夫の行動は止めない
あなた自身が招いたことだもの
恥を知るべきよ
スター:お見事
妻:来た時から練習してた
スター:少なくとも息子はいい妻を持った
妻:ええ、最高の妻だわ
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こういう掛け合いができる人間関係が持てたなら、
それだけで幸福な人生だなあと思う。
最高の妻と夫。
そして、祖父も上品で、お行儀がとても良い。
ロックスターじゃなくて、普通にビジネスマンの億万長者で良かったんじゃないかと思うくらい。
それから、繰り返し呟きたい、お気に入りのセリフもあった。
お客さんに興奮してしまったADHDの娘を落ち着かせる、ご家庭のおまじない。
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一番好きな花は?
バラ
匂いを嗅ぐには?
すぅーーーーーー(深呼吸音)
そのまま息を止めて・・・。
そして大きく一息で吐く。
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緊張するときに使えそう。
一番好きな花の匂いを嗅いで落ち着くなんて、なんて素敵。
気楽にみられて、上品なユーモアが楽しめる良い映画でした。
できれば、かっこいい音楽シーンが一つくらい、あっても良かったかな。
好みを言えば、小さい劇場で、勇気を出して歌えて、べたべたの大団円でも良かったのになあ、と思います。