「ドラクロワの画のような」禁じられた歌声 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
ドラクロワの画のような
宣伝用のスチールにも用いられているショットをはじめ、人物が団らんや音楽でくつろいでいる場面の画は、フランス・ロマン派の画家ドラクロワの作品を思い起こさせる。ドラクロワが北アフリカを旅して得たものをを題材にした作品の構図や色彩などを感じさせる。
父親が横たわり、足元の娘と話をするショットとドラクロワ「サルナダパールの死」の構図はあまりにも似通っている。視覚的なことだけではなく、被写体が死を待つ身である物語も共通する。
つまり、この映画の根底にあるものは、ドラクロワが北アフリカを観る目と同じく、オリエンタリズムに満ちた視線なのだ。ここには西洋人から見たアフリカのイスラム社会が映し出されている。
しかも、制作している当事者はこれを意識的に行っているのではないか。
こうした視点をあえて強調することで、かの地で起きていることへの我々の視線が、相対的で一面的なものに過ぎないことを、われわれ自身に突き付けてくる。
メディアを通して我々が受け取るイスラムやアフリカ世界へのイメージ。そこで起きていることを知る私たちが、そのイメージを増幅強化することしかできず、被害者と加害者という関係でしか解釈することができない事実。
牛をめぐって起きる殺人事件、ボールのないサッカー、歌いながら鞭打ちの刑を受ける女。これらへ本当の意味での共感が湧いてこない限り、我々は彼らのことを自分たちのことのように理解するのは難しい。
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