「能動的サイバー防御法案」シチズンフォー スノーデンの暴露 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
能動的サイバー防御法案
2013年、NSA局員のスノーデンにより暴露された国民への大規模監視の実態は当時の世界を震撼させた。それはジョージ・オーウエルが「1984年」で描いた超監視社会を連想させるものだった。
まさに現実がSFの世界に追いついた、技術の進歩により予算的にもこのような大規模監視が安価で行えるようになり、超監視社会が現実のものとなった瞬間だった。
9.11を契機に成立した愛国者法はテロとの戦いのために政府の権限を大きく広げるためのものだった。内容的に人権侵害の恐れがあるその法律はほとんど議論もなされずいわば9.11という災厄に乗じて作られた。いわゆるショックドクトリンというやつだ。
テロ防止の大義を掲げながら実際は無関係の国民すべてを監視対象としたものであり、スノーデンによるとこのシステムが導入されてから一度もテロ防止には役立たなかったという。むしろ産業スパイなど本来の目的とはかけ離れた運用をされていた。事実、このような盗聴やSNS上のデーターを収集してもテロ対策には役立たない。テロリストはそもそも携帯やネットを使わない。ビンラディンは1998年から携帯を使用してなかったという。彼の携帯を傍受した何者かが彼をピンポイント爆撃した経験から使用をやめたのだという。
当時のスノーデンが命を懸けたこのリークにより大規模監視は裁判所の事前承認が必要と法改正がなされ、オーウエルが描いたディストピアは回避されたかに思えた。
しかし権力者が一度手に入れた果実を早々に手放すとは思えない。手を変え品を変えてその果実を利用しようとするに違いない。
そしてこのリークから10年以上が経過した今まさに今国会で能動的サイバー防御法案が本年度成立を目指して審議されている。
サイバー攻撃に対応した本法律だが、裁判所の事前審査なしで自衛隊や警察が捜査のために民間のサーバーに侵入して事前攻撃を行えるというまさに先制攻撃ともとられかねない危うい法案だ。もちろんサイバー攻撃をあらかじめ予測して攻撃するわけだから普段からの監視が必要であり、その段階で憲法で保障される通信の秘密が侵害される恐れがあるとして野党からは批判されている。
サイバー攻撃を事前に防止するという大義名分はテロを防ぐために大規模監視をしていた当時のアメリカ政府と同じものだ。そしてもちろん安全保障上この法案はアメリカからの要請によるものであることも周知の事実だ。
当時のスノーデンリークは大規模監視に使用されていたXキースコアという検索システムが日本にも供与されていることも暴露している。アメリカと日本における国民監視の実態は同じと見ていて間違いないだろう。
あれから10年以上が過ぎて再びスノーデンのことを思い出さざるを得ないことが残念に思える。しかし彼が命を賭して我々に伝えようとしたメッセージは今も生き続けているはずだ。
権力者の横暴を告発する人間が自分で最初の最後になってはいけないという意味で彼は自身のハンドルネームを「四番目の市民」とした。彼の志を継ぐ五番目、六番目の市民が後に続かなくてはならない。
当時このスノーデンリークを描いた映画作品はドキュメンタリーの本作とオリバーストーンのドラマ作品が作られたけど、こちらの方がさすが本物だけに、またドキュメンタリー監督の手腕もお見事で全編にわたり緊張感が凄まじかった。