劇場公開日 2016年9月30日

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高慢と偏見とゾンビ : 映画評論・批評

2016年9月20日更新

2016年9月30日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー

J・オースティン×ゾンビの最新マッシュアップに、フェミニズム活劇の新フレイバー

マッシュアップとは、既存の異なる要素を抜き出して混ぜ合わせるという音楽用語。当然映画にも当てはまり、ジェーン・オースティンの最高傑作と言われる「高慢と偏見」にゾンビをミックスした最新マッシュアップムービーが「高慢と偏見とゾンビ」。少々くどいがこの混合メニュー、意外にイケる。

なぜなら、世界20カ国語以上に翻訳されている原作が、オースティンのマスターピースに敬意を表し、18世紀末のイギリスで資産家と結婚するしかサバイバル手段がなかった姉妹の葛藤を忠実になぞる一方で、映画史に名を刻むゾンビ映画のルーティンも茶化すことなく、真摯にコピーしているから。

謎のウィルスが蔓延し、感染した者がゾンビ化して次々と人間に襲いかかる終末世界で、相続する財産も持参金もないベネット家の5人姉妹は、母親に促されて金持ち男子を物色する傍ら、外出時にはガーターにナイフを潜ませ、ゾンビと遭遇するや否や中国仕込みの殺陣を炸裂させる。富裕層は日本流で、ベネット家のような中流階級は中国流というすみ分けが乱暴で笑えるが、そんな階級社会が生む高慢と偏見に絡み取られそうになりながらも、次女のエリザベスが大富豪の騎士、ダーシーに利害を超えて惹かれていく話の本筋は、終始乱れることはない。

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むしろ、ゾンビ映画の流儀に習ったかなり残虐な殺戮場面とそれに付随する格闘シーンが、エリザベスを筆頭にとことん窮屈な時代に生まれた女性の鬱屈を表現する上で有効なツールになっている。エリザベスとダーシーが互いの中に鬱積した不信感をぶつけ合う、どちらかと言うと女性側が優勢なスパーリングシーン等は、その最たるものだ。

結果、オースティン×ゾンビは原作のテーマをより分かり易く味付けしたフェミニズム活劇としての新フレイバーをゲット。そこが、同じく製作を担当した主演作「ジェーン」(16)でも女性主導の西部劇という禁断の領域にチャレンジする等、近年、その名声をテコに男社会のハリウッドで独自の地位を築きつつあるプロデューサー、ナタリー・ポートマンの狙い目なのではないだろうか。

清藤秀人

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