「アリバイ、成立!」映画 みんな!エスパーだよ! ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
アリバイ、成立!
「愛のむきだし」「リアル鬼ごっこ」などの作品で知られる変態・・いや、鬼才、園子温監督が、自身の作品の常連、染谷将太を主演に迎えて描く、SFコメディ。
アニメーション作家、宮崎駿は、後に代表作となる「風の谷のナウシカ」を映画作品として上映するために、アニメ専門誌「アニメージュ」に原作を連載した。同志である鈴木プロデューサーとの戦略の中で、「こんな原作で評価を得たので、映画、やっちゃいますよ」と胸を張って出資者に交渉するための作戦、いわば原作はアリバイだった。その結果、興行は振るわなかったが宮崎の才気を遺憾なく発揮する傑作が生まれた。
本作「映画 みんな!エスパーだよ!」を鑑賞すると、この宮崎の巧妙なアリバイ戦略と同様の思惑を感じさせる。テレビ東京深夜枠の地位を確立させる作品として評価されるTVドラマ版作品だが、実はこの作品、園監督作品と銘打ちながら、園が演出しているのは全ての回の半分ほど、そして園演出回以外の作品は、「エロ」というキーワードのみで繋がった覇気の薄い演出の弱さが目立つ。園としては、決して自分の作品として世に出すのは口惜しかったに違いない。
では、何故そんな屈辱と悲しさと隣り合わせの作品演出に、園は名前を貸したのか。本作を見れば、その答えは明快である。
「この、妄想、官能が適当に蒔き散らかされた現代変態絵巻を創るため」その、一言に尽きる。
人気を博したドラマ版の続編の如き宣伝文句で世に出た本作。だが、実のところ似て非なる別物として存在している。愛知県東三河、その片田舎(失礼!)に暮らす人間が、とある理由でエスパーの能力を身に付ける。その大まかな枠は踏襲しつつも、主人公義郎の戦う理由、人物像はスタートからドラマ版の設定に「べったり」と別色ペンキを塗りたくるように書き換える。
「そんな話だったかね」とドラマ版愛好家が首をひねるのを楽しむように、冒頭の人物設定説明を終わらせてからは、昨今の作品で関心を高めている「母性」「女子高生」「女」そして「愛」への偏愛へと突っ走る。
もう、ここからは園映画に慣れ親しんだ方ならご存知のように、観客を無視するこねくり回したセリフで煙に巻き、世界を右往左往、ひっくり返してかき混ぜる。ドラマ版で評価を上げた「パンチラ、胸ちら」をアーティスティックに昇華させながら、現代を代表するグラビアアイドルを大量投入し、映画として成立する「アリバイ」を意図的に提示する。
演出の良し悪しは抜きにして、観客の嗜好と出資者の不安解消双方に目を配り、エロ万歳映画という体裁を決して崩さす色を出す。このバランス感覚を商業映画の世界で維持し続ける作り手は、実のところ現代ではそうそう見当たらない。
「アリバイ」の力と必要性を経験と実績をもって知り尽くし、狡猾に馬鹿を演じる。本作は、その園が日本映画界を華麗に渡り歩いてきた理由を存分に見せつける一本である。
ここまで世界を挑発しても、笑いと変態に立ち向かう魅力にチャレンジする意欲作。なるほど、あの「清純派女優」があきれ果てて現場を離れたのも致し方ない。さて、これはどんなアリバイだろうか。
「ほら、映画としては専門家の皆様はえらく叩いていらっしゃる。これは・・夏帆さんが国民的女優として本作を支えていたという事でしょうな!ははは、愉快!」
毒が、目に、沁みる事である。