劇場公開日 2016年2月11日

「至高の物語」キャロル 小早川さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0至高の物語

2016年2月3日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

大傑作。
衣装・音楽・演出・撮影・そして演技 その全てがパーフェクトな一作。
傑作だという範囲を超え、個人的には心に突き刺さる作品となった。あらゆる切り口で語れる豊かさを湛えた名作。
キャロルとテレーズ、2人の美しく儚い『愛』の姿に目を奪われる。

印象的なアイテムが光る。
タバコ・窓・帽子・そして美しい赤…監督一流の美意識に基づく画面構成が全編に渡って行き届いている。
50年代の空気感を完璧に再現し、古き良き米映画の文法でかつては語ることが許されなかった『物語』を紡ぐ。久々に今作られる必然性のある作品に出会えた。

描かれる物語はテレーズの成長物語であり、キャロルの成長物語でもある。
今よりずっと生き辛い世界で、新たな自我に目覚め、苦悩する2人の女性が自らの生き方を貫く『決断』を下す。
その決断の先の2人の表情に作品の全てが凝集されている。
自分らしくあること、その困難さと尊さ…それは現代にも通ずるメッセージであろう。

言うに及ばず、2人の女優は歴史的な名演。
キャロルを演じるケイトブランシェットはキャロルの持つ美しさ、しなやかさ、強さ、弱さ その全てをわずかな所作や台詞使いで完璧に魅せる。
髪を掻き上げる際にふっと頭を振るその仕草、タバコの煙越しに見える憂いを帯びたその横顔にテレーズと共に恋をする。

一方、テレーズを演じるルーニーマーラは、初めて見るガ―リーな魅力を爆発させる。50年代の服装も相まって、まさに『天から落ちてきたような』魅力を身に纏っている。その表情のニュアンスの豊かさにただただ驚かされる。少女性故に儚げな、『天使』のような彼女にキャロルと共に恋をする。

単体でも歴史的な名演の彼女達が2人揃った時に起きる奇跡は形容しがたい。
互いを見つめる目線の動きが、豊かな感情をあれほど雄弁に語った映画が他にあっただろうか。
カメラ越しにキャロルを見つめるテレーズ…『見つめる』ことこそ恋の本質なのではなかろうか。

年代設定も相まって、2人にキャサリン・ヘップバーンとオードリー・ヘップバーンの面影を見た。そ
一種のロードムービー、それも年の差カップルというのも個人的にはドストライク。
とても語り尽くすことが出来ない程の魅力に溢れた一作。

小早川