劇場公開日 2015年4月11日

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カイト KITE : インタビュー

2015年4月7日更新
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梅津泰臣、アダルトアニメ「A KITE」に込めた思いと実写版の魅力

1998年、アニメーション監督・梅津泰臣による「A KITE」が発表され、アダルトアニメ界に新たな風が吹き込まれた。その熱は海を越え、クエンティン・タランティーノロブ・コーエンらをも熱狂させ、ついにハリウッドで実写映画化されて「カイト KITE」のタイトルでスクリーンに登場する。梅津監督は、17年を経て新たに生まれ変わった“カイト”に、どのような思いを抱いているのだろうか。(取材・文・写真/編集部)

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90年代は、テレビや映画での個人発企画の実現は困難な時代だった。アニメーターから監督として歩み出したばかりの梅津監督は「当時、アニメ業界は18禁ジャンルが隆盛で、 エロシーンがあると企画の内容問わずという状況だった」というなか、温めてきた企画にアダルト要素を組み込むことで「A KITE」をスタート。スタイリッシュなバイオレンスシーンや尖った描写など、これまでのR18指定作品とは一線を画すアニメとして、海外からも熱視線が送られるようになった。

「『A KITE』は特殊な作品。基本的に18禁作品は、エロスを主体に男性のお客さんに喜んでもらうものがメインだけど、『A KITE』はそうではないものがつくりたいという思いがあって、キャラクターの背景がきちんとエロスと結びついているものにしたかったんです。そういうドラマを積み重ねていく過程で、ディテールもきちんと反映したいと思っていました」とアクションやキャラクターのドラマが際立った作品として完成した。

独特の世界観を持つ梅津監督は、ポール・バーホーベンマーティン・スコセッシジェームズ・キャメロンらの影響を受けたという。根底にあるものは、初期「必殺シリーズ」や倉本聰作による刑事ものなど、小・中学生 だった70年代に見たテレビドラマだ。「当時、映画監督たちがテレビに流れてきた時期で、テレビで好き放題にやっている作品がたくさんあったんです。刺激を受けたモチーフがたまっていくと、どこかでこぼれる。こぼれているものを形にしたいと思い、『A KITE』に結びついた感じですね」

梅津監督の強い思いが結実した「A KITE」の実写化企画は、デビッド・R・エリス監督の急逝で一時暗しょうに乗り上げたものの、ラルフ・ジマンがエリス監督の企画を受け継ぐ形で再始動。主人公サワは、当初候補として挙がっていたエレン・ペイジミシェル・ロドリゲスらに代わり、オリビア・ハッセーを母に持つ美ぼうの持ち主、新星インディア・アイズリーが抜てきされた。物語はアニメの世界観を踏襲しながら、キャラクターのバックボーンを掘り下げ、オリジナルのエンディングを用意した。

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「彼らなりにバックボーンを考えて、『A KITE』という世界観を成立させてくれました。最終的なシナリオが送られてきた時、とてもいいシナリオだと思ったんです。数年前に試行錯誤 している時期は、アニメとずいぶん離れている印象でしたが、エリス監督がアニメ寄りにシフトしてくれたんです。僕は彼の作品が好きでとても期待していたんですが、撮影の1週間前に亡くなってしまって。企画も頓挫するかと思ったんですが、ラルフ・ジマンがいい作品に仕上げてくれました」

両親を殺害した組織への復しゅうに燃えるサワの葛藤(かっとう)、サワの過去を知るオブリの秘密など、実写映画の新解釈も多い。「アニメは、砂羽(サワ)の復しゅうというテーマが際立ったつくりだったので、音不利(オブリ)の存在も含め、ミステリアスにして想像させた方が面白いと思っていたんです。でも実写映画の場合、アニメのようにキャラクターが何を思い、何を考えているのかということをすっ飛ばしてしまうと、上っ面に見えてしまう。生身の人間が演じることで彼らの生活が見えるべきだし、生身の肉体だからこそ表現できているリアリティに感謝しています」と太鼓判を押す。自作の映画化にむずがゆい思いもあるようだが、「実写の利点がよく出ているので、ロケーションにしてもラストシーンにしても、アニメと違うシークエンスで良かった」と満足げだ。

「いろいろな人に見てもらいたいです。年代関係なく何かを感じてくれたらいいなと思います。R15ですが、親と見てもいいと思うんですよね (笑)。ある大監督 も『子どもだからといって、ソフィスティケイトされたものばかり見せていたらダメだ』と言っていました。でも、『カイト KITE』を子どもが見たら忘れ得ぬトラウマになるかもしれませんね(笑) 」

梅津監督のこだわりがあふれる「A KITE」は、R18指定というフィールドがあったからこそ生まれた。アニメ制作時、どのような思いを込めたのだろうか。「当時のテレビや映画では描けない個人の復しゅうを形にしていますが、個人が突き進むときの情念を、よりリアルに肉体を持って描きたいと思っていました。それが、18禁だと表現できた。テレビや映画はオリジナル企画を大勢でもむのが常識だから、 一作家の思いがそのまま作品になるということはなかなかない。この時代の18禁作品は、個人の思いをストレートに秘めているのだと思います」

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近年、日本アニメのマーケットは、北米・ヨーロッパから中東にも広がっている。「ネットの力は大きいですね。テレビ放送されるとアップロードされ各国のアニメファンからリアクションが帰って来ます。とある中東の国では日本のロボットアニメが大人気だそうですね。コミケでも、僕の 同人誌を買いにフランスや中国 の方 が来てくれま す。国境を越えるコンテンツとして 、アニメは一層、可能性を持っていると思うんです」とアニメ への期待を語る。

13年に約9年ぶりのオリジナルテレビアニメ「ガリレイドンナ」、14年に「ウィザード・バリスターズ 弁魔士セシル」を発表した梅津監督。現在、原点回帰とも言うべき“今の梅津泰臣”を込めた作品を進めているという。梅津作品は女性の主人公が多いが、「常に企画は8、9本は持っていて、男性が主人公の企画も考えています。あと、映画は僕の制作リズムにあってると思うのでぜひ、映画はやりたいですね。長い間温めている企画があるので実現化したいです 」。スクリーンで梅津ワールドを体感できる日が待ち遠しい。

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