「金の相談は親友とはするな」ハイネケン誘拐の代償 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
金の相談は親友とはするな
不満点の方が多くなっちゃったので最初に書くが、
映画の出来は「可もなく不可もなく」という印象。
重厚なサスペンスを目指しているかと思いきや
オープニングからして雰囲気はシャープで、話の展開もスピーディ。
事件のあらましとか犯人達の焦りが募っていく様子とか、
面白い点もあるので最後までつまらなくはない。
ただなんというか、全体的に展開が早過ぎる気がする。
サスペンスを期待させる要素はいくつもあるのに、それらをすごく淡白に処理しちゃってるというか。
例えば資金調達の為の強盗シーンも『いよいよ計画開始!』という見せ場だったのに、
犯行前の緊迫感を特に煽ることも無く、サクッと始まってサクッと終わってしまうし、
隠し部屋に監禁されていたハイネケンと運転手が間一髪で救出されるシーンや、
最後まで逃げ延びていた犯人2人が捕まるシーンとかも、もっとじわじわ緊張感を高めて欲しかった。
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人物描写もアッサリだ。
リーダー格の妻に係わる部分は割と丁寧に描かれていて、最後の電話のシーンとかも良かったのだが、
その他の犯人達の抱える事情とか、なにより彼らの仲間意識とかはあまり深く描写されていない。
「“裕福”には2種類ある。大金持ちになるか、多くの仲間を持つかだ。両方持つことはあり得ない」
物語の締めにも使われたあの台詞は印象的だったが、主人公らの仲間意識が掘り下げられていれば、
計画が破綻し始めてからの仲間割れも、より心に迫るものになっていたんじゃないかしら。
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あと、あんまり予告編を信用しないようにしている自分ではあるが、
それでもホプキンスの役にここまで見せ場が少ないとは思わなかった。
予告編では、ホプキンス演じるハイネケンが犯人達を翻弄するような不穏な空気を放ちまくってたが、
本編はホプキンスの存在感を持て余し気味。主人公達が追い詰められるのは自分たちのミスゆえで、
ハイネケンは彼らの犯行にそんなに悪影響を及ぼしてはいない。むしろ協力的。
犯行を迷わせるように説得するとか、一味を懐柔しようとするとか、あるいは解放後のハイネケンが
一味を追い詰めるよう警察に協力するとか、そういうシーンがあるもんだと思ってたんだけどなあ。
『主人公たちはどこから警察にマークされていたのか?』という疑問も答えが提示されると思いきや、
『匿名の電話で――』というこれまた消化不良な答えがテロップで示されるのみ。
まあ実際の事件が基である以上、物語展開で冒険はしづらいのかもしれないが……
もう少しハッタリかましてもバチは当たらないんじゃないかと思ってしまう。
それならそれで『事実と違う!』と批判が出るかもだけど。
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というわけで、
面白そうな題材をサクッとまとめてはいるが、
生真面目に作りすぎたのかもうひとつ気持ちの走らない出来。
まあまあの3.0判定で。
<2015.06.13鑑賞>
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余談:
予告編を観て、岡本喜八監督の快作『大誘拐』を思い出した。
あの映画のおばあちゃんくらいにホプキンスが大暴れしたら面白かったのに……
要求額吊り上げるとか警察と自分が交渉しちゃうとか……
それじゃあ史実ガン無視のコメディになっちゃうけど。