「埋もれぬその声が、自分や周りに響く」ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
埋もれぬその声が、自分や周りに響く
12歳の少年、ステット。トラブルばかり起こすが、彼は類い稀な歌声の持ち主。一緒に暮らしていたアル中母が亡くなり、別の家庭を持つエリート父によって全寮制の音楽学校に入る事に…。
孤独だが才ある少年、恵まれぬ家庭環境、周りや師となる人と出会って…。
音楽題材もさることながら、これまで幾度となく語り尽くされ、使い回されてきたような王道ベタな話。
分かっててはいても、でもやっぱり悪くないんだよなぁ…。
よく環境が人格を造るという。
ステットも最初は自分の感情をコントロール出来ず、周りにぶつけてばかり。正直、時々肩入れしづらい時も。
入学の際も“イレギュラー”の彼を巡って意見が半々。
厳格な指導で知られる合唱団団長のカーヴェルも反対派。
ステットは入学。
いじめの標的に。彼の美声に嫉妬し、さらに…。
が、カーヴェルが彼の才能を見出だす。厳しく指導。カーヴェルでステットに、自分と同じでありながら叶わなかった夢を…。
入学前のステットだったら反発ばかりしていただろう。いや実際、入学直後も。
しかし、今はもう。唯一、自分が居られる場所はここだけ。
合唱団の優秀団員の卑屈な嫌がらせにも、やられてもやり返さない。
自分で掴んだ居場所、仲間、合唱団メンバー、夢…。
この才を埋もれさせなくて良かった。
カーヴェル役のダスティン・ホフマンは勿論だが、ステット役のギャレット・ウェアリングこそ光る。
彼の美声に魅せられる。
作品を彩る数々の歌曲。日本人にとっては民謡『ほたるこい』が歌われるのが何だか嬉しい。
息子を学校に入れた父が息子に歌の才能があると分かった途端、引き取る最後は安直で都合良過ぎ。別に本作に限った事ではないが、こういう展開ってよくある。
もうちょっと話を巧く作って欲しかった気もするが、まあそれでも良質の少年の成長物語×音楽映画。
たったひとつの歌声、少年だった。
周りに支えられ、魅了し、響いた。