劇場公開日 2015年8月29日

  • 予告編を見る

「ロマンスカーに乗って」ロマンス 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ロマンスカーに乗って

2020年3月14日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

楽しい

幸せ

東京~箱根のロマンスカーの優秀なアテンダントの鉢子。が、
ぐうたらな彼氏。
仕事では成長しない後輩の尻拭い。
疎遠の母からの突然の手紙…。
イライラが募る。

そんな時、万引き男を捕まえる。一旦最寄りの駅で降りるが、万引き男が逃走。鉢子は走って再び捕まえるが、ロマンスカーは出発した後。
取り残された上に、万引き男に手紙を読まれてしまう。
手紙の内容は、母親が箱根の何処かに居て、死のうとしているような…。
鉢子はその男、自称映画プロデューサーの桜庭と一日限定の母親捜しの箱根旅をする事に…。

後の鉢子の台詞でもあるように、「私、初対面のおっさんと何やってるんだろう…?」。
普通に考えると、オイオイな話。初対面の男と母親を捜して箱根を旅するって…。
小田急PRやご当地ムービーの赴きもある。
でも、このゆったりとした観光ロードムービー感。
ユルくて、コミカルで、悲しみやシリアスも込めつつ、ほっこりハートフルに。
結構賛否両論だが、自分は嫌いじゃないな、この作品。

何と言っても魅力は、W大(ダブルオー)。大島優子と大倉孝二。
仕事ではパーフェクトな接客、でも桜庭にはドギツイ事を言う。大島優子のクセあるナチュラルな演技はなかなか。
MVPはやはり、大倉孝二だろう。明らかに胡散臭く、テンション高めでウザい。でも何故か憎めない。
この二人の掛け合い、やり取りが楽しい。

旅の中で鉢子は、昔家族で出掛けた箱根旅行を思い出す。
楽しかった家族旅行。
でもその後、父と母は離婚し、母は男を取っ替え引っ替え。学校でもイジメの対象に。
高校を卒業して母とはそれっきり。
母から逃げていたのかもしれない。

逃げていたのは桜庭も。
本当に映画プロデューサー。が、手掛けた作品はコケてばかり。
大借金を抱え、出資者から追われている。
自分の才能の無さを嘆く。
しかし桜庭の台詞で、「映画を作ってる時はもう二度と映画なんて作りたくないと思うけど、映画から離れるとまた映画が作りたくなる」。
何だかそれが、タナダユキ監督が込めたあらゆる映画人の本音や代弁に聞こえた。
大コケばかりの人生。
一日だけでいい。
この現実から逃げて、旅の中で模索したものは…。

タナダユキ監督の過去作で言うと、『百万円と苦虫女』『四十九日のレシピ』に近い作風。ちょっと風変わりなユーモアの中に、しんみりさ。
口を開けば辛辣なやり取りばかりだが、徐々に育まれる奇妙な交流、好意があるのか否か、二人の距離間の描き方も絶妙。
それにしても、あの名曲がこんなにも本作にぴったり!

旅は終わって、終着駅。
まさに珍道中であったが、何か得るものもあった筈。
桜庭のラストは賛否分かれるかもしれないが、鉢子の敢えて描かなかったラストは個人的に好きだ。

ロマンスカーに乗って、
旅と、出会いと、自分の大切なものを見つけて。

近大