「彼には夢がある」グローリー 明日への行進 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
彼には夢がある
1965年、マーティン・ルーサー・キングJr.牧師を先導に黒人の選挙権を求め、アメリカ公民権運動の転機となった“セルマ大行進”を描いた実録ドラマ。
ハリウッド映画で始めてキング牧師を真っ正面から描いた事でも話題になった。
…とは言っても、日本人にとってはなかなかに馴染み難い題材。
人種差別は今も度々映画やニュースでも取り上げられるが、映画の核である公民権運動やセルマ大行進などは恥ずかしながら初めまして。
キング牧師は勿論知っているが、人種差別撤廃を訴え、「私には夢がある」の名言、そして暗殺された事くらい。
しかし、ほとんど知識ゼロでも、これは見応えあり!
選挙権を求める525人の黒人と白人警官隊が衝突した“血の日曜日事件”を発端に、やがて賛同者は2万5000人にもなり、アラバマ州セルマから州都モンゴメリーまで80キロの大行進へ。
アメリカの歴史上伝説的でありながらも、苦悩しながらも信念を捨てない誇り高い一人の人間として描かれたキング牧師。
ドキュメントのような力強い演出と深い人物描写、黒人女性監督エヴァ・デュヴァネイの手腕は素晴らしい。
キング牧師を演じたデヴィッド・オイェロウォもカリスマ性たっぷりの名演。
演説シーンなんて引き込まれる!
アカデミー賞では作品と主題歌の2部門ノミネート。(主題歌賞受賞)
ノミネート数が少なすぎる!
作中で度々描かれる白人の黒人への非道な暴力。
白人知事のあからさまな差別発言。
今だったら世界的な大問題になるだろうが、当時は公然の場で振るわれていた。
しかも、僅か半世紀前の出来事!
力での押さえつけに力で抗っても終わりのない負の連鎖でしかない。
非暴力は何にも勝る平和と平等と信念の訴え。
ノーベル賞受賞、公民権運動での勝利など多大な功績を残しながらも、1968年に暗殺。
「私には夢がある」と語ったキング牧師にとって、志半ばだったかもしれない。
が、今では人種の壁を超えた友情や恋愛も珍しい事ではない。
それでもまだまだ人種問題は根強く残るが、キング牧師の夢は現実のものになりつつある。