劇場公開日 2016年1月30日

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「人はなぜ「悪」に魅せられるのか?」ブラック・スキャンダル ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5人はなぜ「悪」に魅せられるのか?

2016年2月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

知的

この作品に出てくる登場人物「ほぼ」全員 ”悪人” なんですね。
このキャッチフレーズ、どっかで見たこと、聞いた事ありませんか?
そうです、北野武監督の「アウトレイジ」あれですよ、あれ。
本作を鑑賞中に「デジャヴ」を感じたのは、そこなんですね。
おそらくスコット・クーパー監督は「アウトレイジ」を見たことでしょう。
作品全編に漂う雰囲気や、絵作りの構図、アート感覚が、ちょっと似ているんですね。
タイトルにある通り、本作はまさにブラック映画、暗黒映画といってもいいです。
そういう「フィルム・ノワール」の秀作としましては、以前劇場で鑑賞した
「あるいは裏切りという名の犬」が挙げられますね。
あれはよかったですよ。劇場出る時なんか、もう自分はギャングになった気分でしたねぇ。
さらには、デンゼル・ワシントンさんが主演した「アメリカン・ギャングスター」これも最高でしたねぇ。
さて本作なんですが、こう言ったギャング物の作品たちの中で、どういう位置づけをしましょうか?
一歩間違うと、かつての秀作、名作ギャング映画と、同じような内容の、単なる焼き直しに見えてしまう恐れがあります。
ただ、本作は実話を元ネタに制作されていますね。
そこが他の、フィクションとしてのギャング映画と、ちょっと違うわけです。
ただ「アメリカン・ギャングスター」も実話ベースのお話でした。
ここで監督の腕の差というのが出てくるんですね。
「アメリカン・ギャングスター」は、リドリー・スコット監督の作品です。
本作の監督、スコット・クーパー監督も、かなり腕の良い映画監督であることは間違いありません。
本作を見てまず注目すべきは、男優さんたちのキャラ、存在感が際立っていることです。
主演のジョニー・デップはもちろん、脇を固めるジョエル・エドガートン、ベネディクト・カンバーバッチ、など
特にジョニー・デップの演技。これは特筆すべきものでしょう。
知性がありながら、圧倒的な冷酷さを併せ持つ人物。
「ヤクザ・ビジネス」その商売人としてのセンスが抜群。努力も惜しみません。よく働くんですね、この人。
いったい、この人物はどういう人間なんだろう?
これだけの努力を惜しまないなら、真っ当な起業家としても、ちゃんと成功しただろうに……と思えるんですね。
物語の舞台は1970年代、ボストンの南町です。
主人公のジェームズ・バルジャーは弟のビリーと共に、貧しい街に生まれました。ビリーは、後に政治家となります。近所の幼なじみ、コノリーは、なんとFBIの捜査官となりました。
ジェームズ・バルジャーは、街のチンピラから身を起こし、麻薬密売などで、ぐんぐん頭角を現して行きます。
そして弟のビリー・バルジャーは政治家としての階段を、トントン拍子に登ってゆきます。
この「ギャング」と「政治家」と「FBI」
全く立場の違う三人が、固い絆で結ばれ、それぞれの地位と権力「金」をめぐり、完全な運命共同体として、行動して行く事になるのです。
ギャング映画の主人公は、もちろん圧倒的な「悪いヤツ」なんですよ。
だけど悪い奴って、なんでこんなに人間的に魅力的なんだろう?
なんでこうも、人を引き込む魅力があるんだろう?
だからこそ主人公の周りに、いろんな人物が磁石のように惹きつけられるわけですね。
こういう構図が、ギャング映画の、ある意味「お約束」みたいな感じに私には思える訳です。
監督自身も、きっとこの悪役の主人公、人物像に、惚れ込んだからこそ、映画を作ろうと思ったのでしょう。
それは北野武監督然り、リドリー・スコット監督しかり。
きっと「ワル」で「ダーティー」なキャラクターに愛着を感じている。
本作ではもちろん、残虐な暴力や殺人のシーンもあります。
だけど残酷な暴力シーンを見せるために、ギャング映画はある訳じゃないんですね。
あくまでも自分の組織を守るため。
自分の家族を守るため。
そして自分の地位と名誉と財産、あらゆる権力を守るため。
そこに人間の深い深い性分と言うものが、見え隠れしてくるわけですね。
ギャングというのは、冷酷で非常で、情け容赦ない、極悪人にまちがいない。
だけど、その原動力は実に人間臭い「欲望」なのですね。
結局、彼らも欲望の前には勝てない。
その時に観客は、彼らギャングも、結局ただの「弱いひとりの人間」に過ぎない、と言うことに気づかされるんですね。
その人間臭い人物像を、ジョニーデップが深く、怪しく、ふてぶてしく演じています。
かつては「パイレーツ・オブ・カリビアンシーズ」において、ジャック・スパロー船長と言う、愛すべき、呑んだくれ船長、というキャラクターを演じました。みんなの人気者になりましたね。
まさか、その人が、こんな一見、氷のように冷たく、非情な人物像を演じきった。
それこそが、この作品を見る価値があると僕は思います。
ジョニー・デップの演技の重厚さ、そして奥深さ。
それが味わえる一作となったのではないでしょうか。

ユキト@アマミヤ