「黒い奴ほど表は白い」ブラック・スキャンダル 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
黒い奴ほど表は白い
『パイレーツ・オブ・カリビアン』で大ブレイクして以来、
エキセントリックな風貌と演技ばかりが注目されるように
なっちゃった感のあるジョニデ。個人的には
本作のようなフツー(?)の路線の方が良いと思っている。
今回彼が演じたのは、FBI最重要指名手配犯リストにも載った
南ボストンの犯罪王ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー。
生っ白(ちろ)い肌、撫で付けた薄い金髪、灰青色の瞳、
不揃いな歯並び。常に着ている黒い革ジャンの
せいもあってか、不気味に青白く見える男。
ホワイティ(=白んぼ)というけど性格はドス黒い。
彼は、自分を裏切る人間を1人の例外もなく殺す。
で、裏切る可能性のある人間も躊躇なく殺す。
おまけに、人殺しに何の罪悪感も感じていない。
相手と世間話で楽しげに談笑していたかと思いきや、次の瞬間
にはその相手の後頭部を眉一つ動かさずに撃ち抜いている。
敵も味方も赤の他人も、その時の気分次第で殺して
しまいそうな緊張感が、彼には常に漂っている。
『秘密のレシピ』のシーンは冷や汗ものだし、
コノリー夫人とのシーンなんて、蛇の舌で顔中
舐められているような悪寒を感じるシーンだった。
だが彼は、血の絆を大事にする心だけは人一倍。
裏切られることが無い唯一の存在だと感じていたのだろうか。
息子や母親の件がもとで彼の暴走に拍車がかかった事を
匂わせる作りになっている点が、わずかに物悲しい。
最後、弟との電話での会話も、冷血無比の怪物では無く、
弟の身を案じ、別れを惜しむ、優しい兄の言葉に聴こえた。
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ある意味でバルジャー以上に腐っていたのがFBIのコノリー。
「勝つ為には多少の不正は致し方無い、要は周りに
バレなきゃOK!」的な、薄っぺらい倫理観の持ち主。
僕には彼が『生まれ故郷の治安を良くする為』よりも
己のヒーロー願望を満たしたいだけに思えてならなかった。
金と名声を手にして助長しきった彼が、正義感溢れる
検事(てかあれがフツーだけどね)の登場で狼狽
しまくる様子は不様だし、憐みの言葉すら湧かない。
というわけで、
前評判通りジョニデの演技は見事だったし、
その他主要キャストも脇のキャストも良い演技でした。
(新鋭ダコタ・ジョンソンは中途半端な演技だったが)
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だけど、
僕の総合的な判定としてはまあまあの3.0判定。
一番の不満点は、その淡白すぎる語り口だ。
起こった出来事を分かり易くまとめてはいるけれど、
語り口が淡々としているので眠くなってしまう。
ジェームズの妻や息子のその後について詳細が無かったり、
母の死による喪失感が今ひとつ伝わらなかったり、
ところどころの演出に抑制が利き過ぎているせいで、
感情的な緩急を感じづらかったのかもしれない。
バルジャー一味とFBI の癒着を示す描写もイマイチ。
バルジャーに翻弄されるFBI――というよりは、
コノリー独りがドタバタしてただけのような印象で、
コトの重大さの割にはこじんまりした話に思えてしまった。
バルジャー兄弟&コノリーの幼い頃からの
結び付きについてもさらりと触れられる程度。
なのでコノリーがジェームズを英雄視する気持ちや、
コノリーとビリーの関係性も薄味に感じられる。
デップ/エドガートン/カンバーバッチという実力派
3人のアンサンブルを楽しみにしていた事もあり、
カンバーバッチの存在感が薄い点でバランスが悪い
とも感じたかな。
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以上。全体的な印象として、
政界 × FBI × マフィアの癒着という刺激的な内容にも関わらず
ジョニデ演じるジェームズが放つ緊張感以外には
スクリーンに引き付けられる要素が少なかったかと。
にしても、こんなインパクトある
ゴツゴツ顔面の方々ばかり、よう集めたね……。.
ブラックというかブロックみたいやね(←謝れ)。
<2016.01.30鑑賞>
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余談:
原題『Black Mass』は直訳すると『黒い群集』
あるいは『黒いミサ(カトリック式の礼拝)』。
事件に絡んでた全員を指すなら前者?
“ホワイティ”にへつらう様子を指すなら後者?
うーむ、どっちの意味なんだろ。