X-ミッション : 映画評論・批評
2016年2月9日更新
2016年2月20日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
エクストリームな監督がエクストリームを求める男たちの特別な関係を描く
潜入捜査ものというだけで胸の高鳴りが止まらない。正体を隠して犯罪組織に潜入し、敵だけでなくときには身内までをも欺き、私生活のすべてを犠牲にする。捜査官が葛藤し苦悶する姿が放つ色気はどんな香水よりも芳しい。
1991年の「ハートブルー」で、銀行強盗犯のリーダー・ボーディ(パトリック・スウェイジ)にサーフィンを通じて接触する、エリートFBI捜査官ユタに扮したキアヌ・リーヴスも然り。相手の正体がわかってからも、立場を超えてお互いを尊敬し、他者が入り込めない絆で結ばれていく二人の関係はまるでロミオとジュリエット。悲劇を予感させるからこそロマンチックなのだ。
その「ハートブルー」を原案にしたという「X-ミッション」は、原題(Point Break)も、ユタやボーディなどの役名も、FBI捜査官と犯罪集団のリーダーという関係性も、サーフィンをきっかけに接触するシナリオも、まんま「ハートブルー」だ。世俗的な価値観で生きるキラキラ系イケメン男子(ユタ)が、精神と肉体をネクストレベルへ到達させようとする意識高い系カリスマオジサン(ボーディ)に感化されるという構図は悪くない。ボーディが向こう見ずな若造ユタを可愛がるのが面白くない、チームの古参メンバーがふてくされるチープさも嫌いじゃない。
本作におけるエクストリーム・スポーツのシーンは、二人が極限状態を何度も共有することで、絆を深める過程を表現するために必要なもの。つまり、このシーンの緊迫感が足りないと、二人がお互いを認め合う理由がわからなくなってしまうのだ。そこで本作は彼らにサーフィンだけでなく、ロッククライミングやウィングスーツフライング、スノーボードといったエクストリーム・スポーツに命がけで挑戦させた。スタントに世界のトップアスリートを起用し、CGを使わないことで、人間の能力の極限を目指すボーディの思想に説得力を持たせることに成功している。
CG不使用とは信じられない映像を作り上げた監督は、「ワイルド・スピード」シリーズの撮影監督を務めたエリクソン・コア。エクストリームな監督が、エクストリームを求める男たちの特別な関係を描く本作は、潜入捜査ものとはまた違う胸の高鳴りを呼び起こす、エクストリーム・アクション・バディムービ―だ。
(須永貴子)