「プリズムのような鮮やかさ! 極彩色のアドベンチャー」PAN ネバーランド、夢のはじまり 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
プリズムのような鮮やかさ! 極彩色のアドベンチャー
児童文学を元にしたファンタジー大作となると今やどうしてもハリポタや『指輪物語』が
頭に浮かんでしまうし、恐らくは制作・宣伝する側もそれらの路線を狙っているのだと思う。
だが鑑賞前の方に言っておきたいのは……
『ハリー・ポッター』ばりの膨大なキャラとアイテム、『ホビット』ばりのド派手で大スケールのアクション、
これらには期待しない方が良いということ。
長大な原作があってしかも初めからシリーズ化が決定している作品、さらには
エンタメ映画を数多く手掛けた監督の作品ではないので、そこはどうしても不利なのだと思う。
(全米での売上が悪かったのもそういった部分なのかしら)
だがこの映画にはそれらとは単純に比較できない良さがある。本作の持ち味は、
ジェリービーンズのように美しく色彩豊かな世界観、そしてオリジナリティ溢れる演出の数々だ。
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金魚鉢のような巨大な水玉が空に無数に浮かぶ光景、
カラフルでパワフルなトライバル達の棲み処、
光輝く水晶体で八面埋め尽くされた巨大な洞窟、
鮮やかな巨大鳥に七色の霧、稲妻のように蒼く輝く人魚たち……
まさしく極彩色のファンタジーワールド!
回想シーンですら、ストップモーションの人形劇風だったり、
水泡や泥煙を活かしたりと凝りまくっていて目を見張る。
先述通り大掛かりで激しいアクションシーンはないものの、
CG主体ではない曲芸のようにアクロバティックで流麗な立ち回りや、空飛ぶ海賊船が
戦闘機と戦ったり逆さまになってチェイスを繰り広げたりする奇想天外なシーンも楽しい。
また、トライバル達が命を失うシーンの演出も劇的かつファミリー向けでそうきたか!と唸る。
そうそう、黒ひげ登場シーンにもド肝を抜かれた。
WW2時代が舞台のファンタジー映画で、まさかまさかの“ニルヴァーナ”!
で、なぜかこれがムチャクチャ合う!! いや全く、恐れ入りました。
(ま、曲のタイトルは児童向けとは言えないんだけど(苦笑))
好きなキャラクターを1人だけ挙げるなら、このヒュー・ジャックマン演じる黒ひげだ。
堂々とした悪役っぷりが恐ろしくも清々しいが、本当は孤独な大悪党。
『空飛ぶ少年が黒ひげを倒す』という予言を知っていながらどうして彼はピーターをすぐ殺さなかったのか。
複雑な表情でピーターに接する黒ひげの心の内が後半になって少しだけ読み取れた気がして、何だか切なくなった。
「ハウ・ロウ、ハウ・ロウ……」
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不満点。
冒頭でも書いた『不利な点』もやや残念だが、一番の不満点は、『飛ぶことができた理由』だ。
最初の落下でピーターがどんな『楽しいこと』を思い浮かべて空を飛べたのかも、
クライマックスで遂に自在に飛べるようになった理由も説明されない。
『飛ぶ事』はピーターの成長を表す最も重要なポイントだと思うのだが、
この経緯を端折ったのでは、彼の成長に共感する事もクライマックスで高揚感を得る事も難しい。
また、ピーターと黒ひげだけでなく、フックやタイガー・リリー等の準主役にももう少しドラマが欲しかった。
フックの背景と故郷に憧れる理由、そして父や仲間達を失ったタイガー・リリーの心境、これらが弱い。
どちらも魅力的なキャラなだけに、勿体無い。.
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だが総評としては「面白かった!」。
ファミリー映画としても安心して観られるし、アイデア満載の映像美は一見の価値ありだ。
ピーターとフック、ネバーランドに残る理由を見つけた孤児2人が悟る、
「家は戻るものではなく作るもの」という答えも心に残る。
観て損ナシの3.5判定で。
<2015.10.31鑑賞>