「現実から眼を逸らすことが悪意を増長させる」ルック・オブ・サイレンス りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
現実から眼を逸らすことが悪意を増長させる
前作『アクト・オブ・キリング』が加害者たちから一方通行だったものが、被害者と加害者の双方向へと変化している。
ただし、加害者の言い分は前作から変わらない。
すなわち、
・知らない
・あれは善行だった
・おれはただ、これこれ(上からの命令や、直接ではない行為など)をしただけだ
・いまさら、ほじくり返してどうなる
など。
そんな言い訳ばかり。
本作品の主人公ともいうべき被害者の弟アディは、彼らが行った行為が非道であったことを認めさせたいのだが、その他の被害者の心情は、どうなのか・・・
映画中盤で、虐殺の中で生き残った老人が登場する。
彼は、当時は若者で、アディの兄の友人で、虐殺から逃れた後、村から離れて暮らしていた。
その老人がいう。
過去のことは、ほじくり返さない方がいい・・・
えええっ!
たしかの老人の立場としては、生き残っていることが知れたら、余生がどうなるかはわからないが、それにしてもあんまりだ。
眼を閉じて、見ないでいれば、なかったことにできる・・・そういう、一種の諦めなのか。
現実から眼を逸らすことが、唯一の生存手段ならば、それは悲しく哀しい。
しかし、眼を逸らすことが、無自覚な悪意を増長させている。
それは明らかだろう。
非道な行為であればあるほど、その行為を見つめ、非道であることを認める。
そうでなければ、より善き世界には到達しないだろう。
そんなことを考えた一編でした。
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