「完全に邦題で損をしている。」モンスター 変身する美女 lylycoさんの映画レビュー(感想・評価)
完全に邦題で損をしている。
原題の“SPRING”じゃ伝わりにくいのは解るけど、これはいくらなんでも酷い。ゴリゴリの怪物ホラーを期待して観る人には肩透かしを食わせ、この手の映画の本来の客には見向きもされない。まさに一挙両損。ネタバレかつ誤謬を含んだ邦題として不評だった『ぼくのエリ 200歳の少女』くらいの方向性を出した方が、ターゲット向きって意味ではマシだったかもしれない。
この作品の根幹は、凝った会話劇中心のラブロマンスと、クトゥルフ的なぬめり系クリーチャーの静かなるハイブリッドで、邦題から想起されるようなエログロホラーではまったくない。グロ描写は慎ましやかだけれど、話の転換点となるシーンのクリーチャー描写はなかなかに衝撃的で、とても良くできている。ずいぶん前のフランス映画『ポゼッション』をちょっと思い出したりもした。
少し前に観た『イット・フォローズ』もそうだったけど、明らかに百凡の低予算B級ホラーとはモノが違う。まず絵作りのセンスがとても好い。低予算らしいローファイな雰囲気を活かしたアンニュイな画面にじわじわと引き込まれていく。劇伴音楽ともよくマッチしていて実に心地好い。時折挟まれるドローン空撮っぽい真俯瞰のショットも印象的だった。俳優陣の演技にもチープなところがなく、脇役の農家の爺さんなんかも相当に良かった。脚本も、台詞が特に良い。変身の理屈を色々と説明するくだりは少し余計かとも思ったけれど、概ね品良く抑えられている。そして、ラストの美しさが心に沁みる。
これはかなりの掘出し物だった。
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