「皆が本音吐いたら世の中地獄」ホーンズ 容疑者と告白の角 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
皆が本音吐いたら世の中地獄
『ハイテンション』『ピラニア3D』のアレクサンドル・アジャ監督最新作。
『ウーマン・イン・ブラック 黒衣の女』(←敢えてそっち)のダニエル・ラドクリフ主演。
もっとシリアスなホラー寄りかと思いきや 、
意外にもユーモラスなシーンが多く、エロかったりエグかったりのブラックユーモアが満載。
そのくせロマンチックで叙情的な部分もあるという、良い意味でヘンなダークファンタジーでした。
.
.
恋人殺しの容疑を掛けられた主人公の頭に突然生えた、悪魔のような角。
その角が生えて以来、主人公が近付くと誰もが本音を喋らずにはいられなくなる。
それどころか、誰もが自分のやりたいことを抑えられなくなってしまう。
ドーナツ爆食いするわ愛する息子をメタメタにこき下ろすわ
医者と看護婦が患者の前で◯◯◯(R15+)し出すわ
なんというかもう、シッチャカメッチャカ(笑)。
特に印象的だったシーンは、
煙がもくもく立ち昇る酒場から、殴り合う記者たちの間を練り歩き、主人公が悠然と立ち去るシーン。
あの一連のシーンはかなり笑えるし、同時に
『みんながみんな自分の本音(欲望)をさらけ出したら世の中地獄』
という事をミニマムに描いて見せているようでかなり面白かった。
.
.
角の力で恋人殺しの真犯人を探す主人公だが、
親しい人々が保身や身勝手な目的の為に自分を裏切っていることを知り、どんどん怒りを募らせる。
そしてその怒りが増すほどに、主人公もどんどん悪魔チックな風貌に近付いていく。
クライマックスなんてもう『アベンジャーズ』に出られそうなレベルの変貌ぶり(笑)。
風貌は悪魔チックになっても、主人公は人をそそのかして悪事をさせたりはしない。
むしろ主人公によってエゴを剥き出しにされた人々は、そのエゴが元で勝手に自滅していくのである。
主人公はいわば人の心の醜い部分を容赦無く暴き、それを断罪する、厳格な審判のような存在になっていく。
.
.
真相を追うほどに明らかになるのは、人々が抱える、嘘で塗り固められた醜いエゴの数々。
だが最後に主人公が知るのは、自分以外の誰かの幸せを願うが故の真摯な嘘だ。
悪魔も天使も元は同じであるように、人の心は醜い部分と綺麗な部分が入り混じっているもの。
主人公に生えた悪魔の角は、ただ人の心の醜い部分を明らかにする為のものではなく、
死んでしまった恋人の想いや、弟を裏切った兄の後悔のような、
醜い心を全部絞り出した後にそれでも残る綺麗な心を明らかにする為のものだったのかも知れない。
……と、まあ、綺麗事を言って締めてみる。
.
.
以上!
アレハンドロ・アジャ監督作品としては、恐ろしくもどこか切ないラストが印象的だった
『ハイテンション』に少し近い出来という気がする(あそこまで血みどろじゃないケド)。
観て損ナシの3.5判定で。
<2015.05.10鑑賞>
.
.
.
.
余談:
本作の原作者はなんと、モダンホラーの帝王スティーヴン・キングの息子ジョー・ヒル氏だそうな。
親父さんの小説は大好きでも、彼の小説は読んだことが無かったが……
このブラックユーモアをたっぷり含んだホラーファンタジーを観るとなんだか納得。
寂れた田舎町が舞台である点、少年時代からの因縁、あとヘヴィなロック曲の使用の多さからも
親父さんの嗜好に近いものを感じるが、ロマンスに瑞々しさが感じられる点は若さかねえ……
って、そういう事はちゃんと原作読んでから言いなさいという話。