「【”愛の記憶・・。”生き方、愛情表現が不器用だが情に厚いチンピラと、父の借金で苦しむ銀行員女性との切ないラブストーリー。ファン・ジョンミンは矢張り、若き頃から名優です。】」傷だらけのふたり NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”愛の記憶・・。”生き方、愛情表現が不器用だが情に厚いチンピラと、父の借金で苦しむ銀行員女性との切ないラブストーリー。ファン・ジョンミンは矢張り、若き頃から名優です。】
ー ご存じの通り、今作の主演、ファン・ジョンミンは韓国の名優である。傑作「国際市場で逢いましょう」を劇場で観て、その後2018年以降の日本公開作は全て劇場で観て来た。特に今年公開された「ソウルの春」で、全斗煥をモデルにした男を演じる姿は、すさまじかったものである。
で、彼が比較的若い時の作品も、少しづつ観ているが、矢張り良き俳優であると、改めて思うのである。-
■高利貸しの取り立てをしているテイル(ファン・ジョンミン)は、猪突猛進な、粗野で乱暴者な面があるが、情に厚い一面を併せ持っていた。
ある日、病院で昏睡状態に陥った老いた男の借金をその娘で銀行員のチュ・ホジョン(ハン・ヘジン)に肩代わりさせたテイルだったが、その美しい娘に一目惚れしてしまい、不当に高い金利の覚書を破棄し、自分と一日に一時間だけ一緒にいる事で、借金の金利を取り消す覚書に捺印させる。
◆感想
・最初は、テイルを嫌っていたチュ・ホジョンだが(そりゃ、そーだ)、父が亡くなった際に誰も弔い客のいない葬儀場に現れ、喪主の如く振る舞い、多数の人を読んで賑やかな葬儀を取り仕切るテイルの姿を見て、情に絆されて行くシーンが、とても良い。
ファン・ジョンミンが演じると、嫌味が無く、クスクス笑いながらも、少し熱いモノが込み上げるシーンである。
・チュ・ホジョンは葬儀の件がきっかけで、テイルに心を許し、二人で一緒に住むようになる。幸せそうな二人の顔。
そして、チュ・ホジョンはテイルに取り立て屋の仕事を辞めるように頼み、二人で新しい仕事を始めるために店を持つ事を考える。が、テイルは退職金を賭博で増やしてやるという同僚のドゥチョル(チョン・マンシク)の誘いに乗ってしまう。その賭博屋に強盗が現れ、有り金を全て取られたテイルは自棄になり、酒場で軍人達と喧嘩になり、刑務所に入れられてしまう。彼を不動産屋で待つチュ・ホジョンの表情が、切ない。
・2年後に、刑務所を”模範囚”として刑より早く出たテイル。だが、当然チュ・ホジョンは迎えに来ておらず、テイルは贈り物を持って彼女の家を訪ねるが、冷たいあしらいを受けてしまう。(そりゃ、そーだ。)
■だが、テイルが早く刑務所を出た理由が”深刻な脳腫瘍に犯されていたために、刑の執行停止を受けた事が分かるシーンから、この作品は一気に切なくなっていくのである。
その事実を知ったチュ・ホジョンや、いつも喧嘩ばかりしていた兄ヨンイル(クァク・ドウォン)、叱られてばかりいた少し認知症の症状がある父(ナム・イル)との関係性が、少しづつ変わって行く過程が、実に上手く描かれている。
父も兄も、態度を急変させるわけではないが、残り少ないテイルの人生を考える様。テイルも、自身の病を知っておりチュ・ホジョンの家に謝りに行った時のシーンも、切ない。
彼女の部屋に額縁に入れられていた且つての”自分と一日に一時間だけ一緒にいる事で、借金の金利を取り消す変な覚書”をテイルがチラリと見るシーンは、沁みる。
・そして、テイルは口の悪い姪ソンに欲しがっていたスマホを送り、彼は町を出る。だが、チュ・ホジョンは、同僚に男性を紹介されながらも、テイルを追って来るのである。
更にテイルは、父に”チュ・ホジョンは、独りなんだ。父さんが面倒見てくれよ。”と言って、ハートの形をした自作のお守りを渡すのである。
その後彼の葬儀が行われる。この時に、大仰にテイルとチュ・ホジョンが抱き合って、涙を流すシーンなどが一切ない事が、却って良いのである。
葬儀後、チュ・ホジョンと、テイルの父はハートの形をしたお守りを、一緒に握るのである。
<今作は、生き方、愛情表現が不器用だが情に厚いチンピラと、父の借金で苦しむ銀行員女性との切ないラブストーリーであり、無骨だが、情に厚く心優しき男テイルを演じるファン・ジョンミンの姿が、沁みる作品なのである。>