「「pk」って何者?」PK ぞうさんだぞう。さんの映画レビュー(感想・評価)
「pk」って何者?
監督の前作である「きっとうまくいく」は未見です。
全体としてとても面白かった!!
ボリウッド自体ちゃんとみたのは初めてだったけど、かなり良質なミュージカルで、難しい部分が特にわからなくてもとにかくワクワクする作品でした。
この作品でまず驚いたのは「pk」がUFOでやってきた宇宙人であるところ。テレパシーで会話し、みんな服は着ないで裸。そんな彼がリモコンを奪われたために、地球の神様に頼っていく。
これは分かりやすく「神様=宇宙人」説を採用していることがわかる。ヒストリーチャンネルとか都市伝説であるような、宇宙人が人間に知恵を与えたために神として崇められ、神様となっていくという、そんな荒唐無稽な設定をリアリティとポップさで描いている。
ただ「pk」は人間に知恵は与えたりはしていない。むしろ今の人間社会と自分たちの星の常識のズレに迷ってしまっている。そもそも自分はわからないから色々試行錯誤したり質問したりしているのに、まわりの人々は「pk(酔っ払い)」とバカにしている。でも「pk」は冗談がわからないから、バカにされてることもわからない。彼の星では嘘はつけないからだ。
こうして様々な宗教の神様に手当たり次第に頼る「pk」は神様の存在自体に疑問を感じる。「神はどこにいるのか」。そうして彼は神様の捜索願のビラを配るようになる。
そこに偶然出会ったのがジャグーというテレビ局で報道を担当する女性。彼女は、父がヒンドゥー教系の新興宗教に盲信しており、その家庭環境に疑問を感じ、新興宗教には敵意も持っていた。そうした中で興味本位から「pk」を手助けし、取材をするうちに、「pk」の純真な疑問と指摘によって、インドの宗教問題に一石を投じようと利用するようになる。
「pk」はリモコンを見つけるために彼女に協力し、新興宗教を追い詰めるが、一方で彼女が自分を利用するために黙っていたことを知り、憤る。しかしそのころには「pk」は彼女のことを愛してしまっていた。リモコンを探すことを諦めて、彼女のために地球で暮らす道を考え始めるが、彼女の記憶から元の彼氏との辛い別れを知り涙を流す。
ここで「pk」は単に悲しい別れを彼女が経験していたことに泣いていたのではない。彼には、新興宗教の予言によって手紙の「かけ違い」が起こり、好きな者同士が不本意に別れてしまったこと、彼女が自分を男性とは見ておらず、未だに元の彼氏を好きなことが分かってしまったために涙を流してしまったのである。だから告白をするための名刺をクシャクシャにしてしまう。
自分を最初に疑いの目なく「兄弟」と受け入れてくれた兄貴がテロに巻き込まれて死んでしまったことに悲しみながらも、このような宗教の「かけ違い」をなくすために討論番組で新興宗教の教祖を打ち倒した「pk」。そのとどめを刺したのは、奇しくも自分だけが知るジャグーと元の彼氏の「かけ違い」の指摘であった。全てを解決した「pk」はリモコンでUFOを呼び出し、自分の星に帰っていく。ジャグーに隠した初めての嘘は、彼女への愛を知られたくないためだった。
この「pk」は正に神様そのものだと感じた。人間社会の全てを客体化し、そこから何が必要かを説いていく。これは日本でも大阪のビリケンさんや、宮城の仙台四郎のような、実在の人物の神格化そのものである。でも彼らは神様であって、特定の個人を選ぶことは許されない。「pk」も最終的にはジャグーとの愛を選択せずに、人間全体の幸福に寄与する。そうした意味では「pk」は孤独だけれど、それでも彼は強い気持ちを持ち続ける。なぜなら「神様は自分のことは自分で守れる」からである。
最後にジャグーが詩を嗜んでいて、「pk」の伝記を書いていることも示唆的である。このような素朴な伝播こそが宗教の起こりであり、それが体系化されるのは、その宗教を利用する者たちがするところに大きい。どうかこの「pk」という神様も、悪用されなければいいが、「pk」はその時も簡単にあしらいそうである。誰にだって宗教ってなんだろうという素朴な問いを考えさせられるこの作品は凄いし、なによりただ単純に娯楽作になってるのもすごい!絶対お勧めです!