「もし、戦争さえ無かったら…」母と暮せば 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
もし、戦争さえ無かったら…
今年は多くのハリウッド大作が公開されたが、邦画にも良作が多かった。
ざっと挙げるだけでも…
「日本のいちばん長い日」「駆込み女と駆出し男」「幕が上がる」「海街diary」「ソロモンの偽証」「バケモノの子」「風に立つライオン」「くちびるに歌を」、まだ未見の作品で気になるのは「あん」「恋人たち」「ハッピーアワー」などなどなど。
自分がアカデミー会員だったらとても5本に絞りきれない!(>_<)
そんな豊作だった今年の邦画の劇場鑑賞トリとなる本作も!
井上ひさしの戯曲「父と暮せば」と対となる物語を映画化した山田洋次監督最新作。
長崎の原爆で最愛の息子を失った母の前に、息子が幽霊となって突然現れ…。
山田洋次初となるファンタジックな要素を含みつつも、監督の持ち味である家族ドラマ、人情、反戦が込められ、これぞ山田作品!という仕上がりに。
幽霊となって現れてもお喋りな息子。飄々としてて、ユーモアを挟む。
普通なら驚く所だが、そんな息子をすんなり受け入れる母。いかに息子を愛していたか、再会出来たその喜び。
主に茶の間の会話劇となる二人のやり取りで、母と息子の関係を丹念に描写する。
また、結婚を誓いながらも果たせなかった恋人との関係にもホロリとさせる。
山田洋次は家族モノ人情モノの名匠と言われているが、反戦映画にも長けていると思っている。
前作「小さいおうち」でもさりげなく込め、「母べえ」は庶民の立場から戦争の悲惨さを訴えた傑作。
本作のメインメッセージであろう“戦争によって失われた親子の絆”は、まさにその真髄。
もし、戦争が無かったら…。
この温かい母と息子の関係は自然の流れで母が寿命を全うするまで続き、恋人とも結婚し、平凡でありがちだけど幸せな一生を送っていたに違いない。
戦争が全てを奪った。
戦争が多くの命を、大事なモノを奪った。
多くの人に、一個人に、深い傷を負わせた戦争は、一体何だったのか。
去年の「ふしぎな岬の物語」は個人的にコケたが、山田作品に映る吉永小百合はしっくり来る。
が、今回の金星は若い二人ではなかろうか。
「武士の一分」のキムタクに次いで山田作品二人目となるジャニーズ、二宮和也。母親思いの息子を好演。
母と息子の物語に、息子の恋人役で一際の感動を織り込む黒木華。今年は良作続き、個人的に助演女優賞を。
泣けると期待して見ると、意表を突かれる。
何故なら作品には、悲しみと苦しみが覆い被さっている。
戦争から生き逃れた者は、いつまでも過去を振り返ったままではいけない。
何かを諦め、思い出を断ち切って、この命と共に新しい人生へ。
その一方…。
結末は、見方によってはハッピーエンドでもあり、悲劇でもある。
明暗分かれた残された命。
少々辛辣ながらも生への温かいメッセージ、そして戦争が起こした悲劇…。
終戦70年目のトリを飾るに相応しい秀作。
また、今年母を亡くした自分にとっても、このタイトルや物語は胸に迫るものがあった。