ブルックリンの恋人たち : 映画評論・批評
2015年3月10日更新
2015年3月13日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー
アン・ハサウェイ初製作、フォーク・ソングと孤独が繫げた儚いロマンス
アン・ハサウェイ、初めてのプロデュース作はニューヨークのブルックリンを舞台にした、繊細なロマンスである。アンが演じるフラニーは、博士号を目指してモロッコでフィールド・ワークに勤しんでいたが、一本の電話で実家のニューヨークに呼び戻される。フォーク・ミュージシャンを目指していた弟のヘンリーが交通事故に遭い、意識不明の重体に陥ったのだ。ヘンリーのノートをもとに、フラニーはブルックリンにおける彼の生活を追体験し、ヘンリーの魂を見つめようとする。
ニューヨーカーでありながらブルックリンの文化に疎い「余所者」のフラニーの目を借りて、この地で盛り上がっているアメリカーナなニュー・フォーク・シーンを紹介する、というのが、この映画の真の狙いなのだろう。フォークやブルースといったアメリカのルーツ・ミュージックに影響されたバンドやミュージシャンが、ライブ・シーンに登場する。ウィリアムズバーグの古いライブハウス、ピート・キャンディ・ストア等をロケに使ったシーンで、フィドルやアコーディオンを取り入れたザ・フェリス・ブラザーズや、日本でも人気のあるシャロン・ヴァン・エッテンの歌声が聞けるのが嬉しい。ヘンリーの憧れのミュージシャン、ジェームズ・フォレスターの曲を手がけるのは、インディ・ミュージシャンのジェニー・ルイスとジョナサン・ライスのコンビだ。
そんな、街と音楽のリアリティに対して、フラニーとジョニー・フリン演じるジェームズの恋は非常に儚い。孤独を媒介に一瞬つながった2人の様子を、フロイランド監督はブルックリンならではのおとぎ話として描きたかったのかもしれない。弟が買っていたチケットでフラニーがジェームズのライブに行ったことをきっかけに、二人の交流が始まる。フラニーは彼と共に街に出て、弟が好きだったであろう街の雑踏やイースト・リバーの流れる音を録音し、それをヘンリーに聞かせることで彼の意識を呼び覚まそうとする。弟との断絶の記憶と、彼を失う恐怖と悲しみがあまりに深いせいか、フラニーというキャラクターが本来どんな女性なのか明確に伝わってこないのが、ちょっと残念だ。
(山崎まどか)