「反戦・反核ではなく好戦・核武装のプロパガンダ」シン・ゴジラ タタリさんの映画レビュー(感想・評価)
反戦・反核ではなく好戦・核武装のプロパガンダ
映像はいいですよ。邦画によくある安っぽいCGもミニチュアのチャチさもない。映像だけ見れば合格点。
ゴジラをゴジラたらしめる最大の要素は「反戦」「反核」。
それがこのシン・ゴジラにはまるでない。むしろ逆に軍拡を煽り、戦争を礼賛している。
ゴジラが出た、正義の自衛隊に駆除させよう!
自衛隊で歯が立たなかったからもっと強い米軍に駆除してもらおう!
自衛隊がやられたのは自衛隊を縛る法があるからだ!動かしやすいように規制を緩めよう!
…………どこをどう見ても反戦ではありませんね。好戦的すぎます。
そして核の方も反核どころか核武装を推進したい意図がありありと見えます。
最終的にゴジラの凍結に成功するという結末は日本が核保有国になったとみて間違いない。なにしろ水でも空気でもありとあらゆる元素を放射性元素に転換する夢の原子炉が東京のど真ん中に出来たんです。
しかもゴジラが作る放射性元素は半減期が20日程度の、比較的クリーンな核。ゴジラの核で作った核爆弾なら放射能汚染はほとんどない、「使いやすい核」です。
これまでのゴジラ映画と関連しないリブート作というのは知っていましたが、まさかゴジラの根幹である「反戦」「反核」を完全に捨てるとは思ってもみませんでした。
その他の点では……
・野党が一人もいない
リアル志向なのに与党が全議席獲得しているとでも?
・主人公がなぜか最初からアクアライン崩落の原因は巨大生物と見抜く
トンネル直上で海が沸騰しているというただそれだけの状況からなぜ巨大生物を連想したのか?
映画の最初の数分でこの荒唐無稽さは大いに白けます。
・災害映画なのに被災者の描写が平和すぎる
「正義の自衛隊」に助けられて非難するシーンと、ゴジラの凍結が成功して喜ぶシーンくらいしかありません。
災害映画であるならこういうシーンをもっとちゃんと描くべきでしょう。
・市民の描写が国会議事堂前でのどんちゃん騒ぎ数秒だけ
必死にお国のために働く偉大な与党議員様と、その苦労も知らずどんちゃん騒ぎするだけの馬鹿な国民の対比が醜悪。
・アメリカが東京への核攻撃を主導していながら、米軍は義勇軍よろしく日本を助ける
「日本が好きだから米軍は日本を助ける」って御都合主義すぎませんか?
軍隊は政府に従うものですよ。
・主人公の政治家が最後の作戦の際に自衛官に要約すると「お国のために死ね」と激励する
その暴論で多くの人を死なせ国を滅ぼしたのが太平洋戦争でしたね。
・ゴジラが直立した後はほぼ棒立ち
動かすとフルCGのゴジラが破綻するからでしょうか?
・ヒロインがルー語を使う
シリアスな雰囲気にルー語をぶち込まれたら失笑するしかありません。
・怪獣映画なのに大部分が政治家同士の会話劇
怪獣映画、ゴジラ映画を見たいのであって、安っぽい熱血政治家のヒューマンドラマを見たいわけじゃないんです。
自民党万歳、自衛隊万歳、米軍万歳、日米安保万歳!
臆面もなく堂々とそう叫べる人は気に入ること間違いなしです。
興行的には成功するかもしれませんが、作品としては「ゴジラ」に止めを刺した墓標です。
(以下8/3追記)
特定の思想に染まっていると……などの本レビューに対する批判的な意見を頂戴しております。
私としてはこの映画を手放しで絶賛する方こそ、軍拡・核武装を是とする思想に染まっているか、ただ「日本のゴジラ映画だから素晴らしいんだ」と無条件で傑作と看做す思考停止をしていると思えます。
東京への核攻撃を防いだのは確かにヤシオリ作戦によるゴジラ凍結ですが、そこに義勇軍?として加わった米軍の行動の根拠は日米安保です。
これのどこが日米安保に懐疑的・批判的なのですか。ほぼ全面的に安保賛成ではありませんか。
謎のチャートの分析やフランスの協力を得るための見返りは何ですか?
ゴジラという「夢の原子炉」ですよ。日本に協力すればあらゆる元素を放射性元素に転換する夢の原子炉ゴジラを利用できるようになるんだぞ、と、核を餌にして「核保有国」フランスをはじめとする各国の協力を「買った」のではありませんか。
核は東京を焼き尽くす最終兵器として描かれたと同時に、ゴジラを退けた日本人に与えられたご褒美としてこそ強く描かれています。
本作のゴジラは福島第一原発を怪獣に擬したものというのは多くの意見が一致する所ですが、本作ではその制御に成功しています。
原子力は人間が制御できる、事故が起きても収拾できる、「アンダーコントロール」だ、と原子力の危険性を矮小化し利用を推奨しています。
また野党が一人もいないというのは、この大事において当然召集されるはずの臨時国会さえなく、スクリーンに一人も登場していないという意味です。
まさか国会前でどんちゃん騒ぎをしていたのが野党議員だ、というわけではないでしょう。明らかに意図的に野党の存在を無視しています。
繰り返しになりますが、原発、米軍、安保、軍拡について、ほぼ全面的に肯定のメッセージを送るプロパガンダ映画です。
公開作品ですから、どういう感想をお持ちになるのかは見た人の自由ですけど、ちょっと賛同しかねるかなぁ。
確かに「日本上げ」のような論調で作品が描かれてはいますが、あくまで日本vsゴジラだったからそうなったのだと。そうじゃないとゴジラの怖さが引き立たないじゃありませんかw
映画見た後で「日本カッコいい!日本すげー!うぉー!」のようになる人がいるかもしれませんが、それってオリンピック見て日本応援するのと変わらないような気がします。そういうのもダメなんですかね?
野党が描かれてないのも「映画」として必要ないからでしょうに。
「この映画を絶賛してる奴は全員右巻きの狂信者だ!」っておっしゃられてる時点で「アイタタタ」って感じなんですよね。
統計かアンケートでも取られたんですかねw?
左巻の人からは中道もノンポリも全部右巻に見えるって状態に陥ってるとしか思えませんよ。
日米安保や政治について無知の自分としては興味深いレビューだと感じます。そういう見方もありかと。
確かに被災者の様子なども捉えるシーンがあればよかったかなとは思います。庶民目線が足りなかったですね。
各国の協力を買ったとありますが、確かに劇中はっきりとそう言ってましたね。参考になりました。
しかしゴジラ好きとしてはもう少し純粋にゴジラを見て評価してやってもいいのではないですかね?
特定の思想に囚われた人にはそう写るのか?というレビュー
>・主人公がなぜか最初からアクアライン崩落の原因は巨大生物と見抜く
SNSの画像を見ている描写がありましたよ。
一体どういう先入観を持って観たらこの映画がそう見えるのか、理解に苦しみます。
むしろ、アメリカや安保や原発に対してはかなり批判的ないし懐疑的な立場を取った映画だと思いますが。
途中で寝てらっしゃったのでしょうか。