劇場公開日 2016年7月29日

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「絶望と希望のモニュメント 【加筆修正3】」シン・ゴジラ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0絶望と希望のモニュメント 【加筆修正3】

2016年7月29日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

興奮

※映画をフラットな気持ちで観たい人は読み飛ばしてください

よくぞ、よくぞやり遂げてくれた!!!
スタッフ一同にまずはそう感謝申し上げたい。

ハリウッド版『GODZILLA』のレビューで僕は
『しばらく日本のゴジラは作られないかも』と書いた。
あんな規模のハリウッド大作に、大作でもその
半分以下の制作費でやりくりする邦画が、
どうやって太刀打ちできるというのか。そう考えたから。
だが、それは大間違いだった。日本映画の本気を
ナメてかかっていたと僕は謝らなくてはいけない。

慎みながら判定5.0を付けさせていただいた。
たまには言葉を濁さずはっきりと書こうか。
この映画は傑作だ。
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冷静になるためにまずは最初に欠点を挙げる。
石原さとみのアメリカン演技?
いやそこは大丈夫。最初こそ気になるが、
彼女の存在感は後半でだんだん効いてくる。

やはり挙げるべきはCGのクオリティ。
現時点における邦画最高峰のCGであることは
疑う余地もないし、後半に行くほど良くなるが、
肝心の登場時が気になってしまったのが痛い。
最初に海からその片鱗を現す瞬間、そこから
街を蹂躙するゴジラ、破壊される船・車に関しては
リアリティが些か減じてしまったと言わざるを得ない。
また、ゴジラの“あの攻撃”の後のパートから
クライマックスまでで、物語の勢いが
やや落ちたと感じたことも挙げておこう。
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だが、それら欠点を鑑みても、この映画は面白い。
いや大変失礼ながら、クソ面白い。

もしも現代日本にゴジラが現れたら?
この映画はその虚構を徹底したリアリティ、
そして凄まじいスピード感で紡いでいく。
災害シミュレーションのような流れで進む物語。
巨大な水柱と海底トンネルの事故。そこから
関係閣僚が召集され、きっと海底火山だと
締めようとした所から、次々に『想定外』が起こる。

目まぐるしいほどのカット数、溢れる専門用語、
だがそれらの圧倒的な情報量は物語を理解する
妨げにはならず、刻々と変化する状況をまるで
リアルタイムドキュメントのように活写してみせる。
時おり挿入される手持ちカメラやスマホの映像も
臨場感の演出に一役買っており、人間の目線
で撮られた多くのシーンが、未曾有の怪物が
目の前を闊歩しているというリアルな衝撃を与える。

そしてそれらの徹底したリアリティこそが、
中盤のあの目の前が真っ暗になるほどの絶望と、
終盤のあの涙ぐましいほどの希望と緊張感を、
現実味のある感情として観客へと伝えるのだ。
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今回のゴジラは言うまでもなく3.11の再来だ。
メディアで繰り返された『想定外』という言葉の塊だ。
どこへ向かうかも、何をしでかすかも、
どう変動するかも分からない、意思を持った災厄。
そして詳細は避けるが、従来通りの核の申し子でもある。
いやその責をアメリカ以外に更に拡大したと言える。

きっとあの最初の姿には度肝を抜かれるだろう。
きっとあのおぞましい猛攻にも度肝を抜かれるだろう。
平成ゴジラに思い入れが強ければ強いほど、
嫌悪にも近い衝撃を受けるだろう。だがこれは、
平成のヒロイックなゴジラではないのだ。'54年の初代
『ゴジラ』の時に観客が抱いただろう恐怖と嫌悪なのだ。
主人公・矢口率いる異端者だらけの対策チームがゴジラを
生物的に分析していく部分もサスペンスとして機能。
段々とその驚異の生態が明かされる過程も見逃せない。
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リアリティを追求した語り口と、
ゴジラという怪物を解き明かすサスペンス、
さらには、心を動かすドラマをもこの映画は成立させた。

市街の惨状、放射能の恐怖、大量の避難民の姿――
否が応でも思い返される3.11の恐怖。

そして、持てる限りの知識と勇気と希望でもって、
死に物狂いでこの国を救わんと闘う者達の姿。
クライマックスの主人公のスピーチには、
あの恐るべき原発事故に現場で立ち向かった
人々の悲愴な決意を連想せざるを得なかった。
この世の終わりのような光景を見てもまだ、
この国は必ずまた立ち上がると彼等は希求する。
10年後の自分の未来より、10年後のこの国の未来を。
その熱さに、その希望に、どうして、どうして
涙が込み上げるのを止めることができようか?
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'54年の『ゴジラ』は原爆投下の9年後に制作された。
アメリカの水爆実験による第五福竜丸の被爆事件を
受けて制作されたあの作品は、いわば日本がトラウマを
乗り越える軌跡のひとつであり、同時に未来への警鐘だった。

本作からはそれに匹敵するだけの気概と気合を感じる。
まだ立ち上がれる。
また立ち上がれる。
最後に空中へと差し伸ばされたあの手。
この映画は日本を襲った災厄への悲愴な鎮魂歌であり、
そしてそこから前進する為の、“ゴジラ”というモニュメントだ。

<2016.07.29鑑賞>
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余談1:
『ゴジラ』は僕が映画好きになるきっかけと
なった作品で、今の仕事に就いた遠因でもあるので、
もうムチャクチャに思い入れが強い。

んが、思い入れが強過ぎると過去作やスタッフ
への先入観などで冷静にレビューできない。
それは作り手にも作品にも失礼な気がするので、
今回は極力フラットな気持ちで鑑賞する為、
予告編以外の情報を一切シャットアウトし、
過去作・関連作の復習も一切行わずに鑑賞。
ここ数ヶ月はある種の苦行でした。

余談2:
沢山の人が数年間も心血注いで作ったものを、
ろくな理由も書かずに10,20文字で馬鹿に
するような連中には「恥を知れ」と言いたい。

余談3:
炎は一億度を越えるとプラズマ状態になるらしい。
最後に言いたいことはそれだけだ!

浮遊きびなご
真理さんのコメント
2022年4月3日

浮遊きびなご様、丁寧な返信ありがとうございました。
名前の事は、気になさらずないでください(*^-^*)

実は待ち望んでいたご返信なので本当に嬉しかったです。
ただ、私はとんでもない誤解をされる文章を書いていたことに気づきました。
私の夫と、浮遊きびなご様のバトっていた方は別人です。そして私の夫もシンゴジラは高く評価しております。(夫の中で2番目に好きなゴジラ映画だそうです。1番は1984年)
私が初めてゴジラ映画をみたのは50年以上前です。ただ大きなゴジラが町を破壊していく、それが怖くてなのになぜか観たくて仕方なかった。何度もみましたが、中身を覚えているのはほとんどなく、子育てが終わってまた楽しみ始めました。
シンゴジラは私にとって、ストーリーもアイデンティティもキャラも設定も結果も見せ方も最高傑作、一分たりとも飽きさせることがなかった。
でも、多くのレビュアの過小評価を読むたび、悲しくなってレビューできなくなりました。
劇場で7回も観たのに…
私の気持ちの代弁ではないのはわかっていたのですが、同じ気持ちを持っていらっしゃる方が、戦って下さったことに心から感謝しております。
人の映画のみかたが様々なのは分かっていますが、こんな低評価をつけるほどかと、長年のファンがそれを言うのかと。
本当に悲しかった。
ですから、本当に嬉しかったんです。ありがとうございました。

真理
真理さんのコメント
2022年2月23日

浮遊きびなご様、貴方がゴジラ好きで低評価の方とのバトルコメントを読ませていただきました。
私もきびなご様と同じ気持ちでしたので、言って下さってありがとうと心からお礼を申し上げさせていただきます。

ゴジラに対する愛は人それぞれなんだなと良くわかりました。シンゴジラを私は劇場で7回鑑賞し、発売すぐにBDを買い、事あるごとに鑑賞しているくらいこの
シンゴジラが好きです。
もともと怪獣が好きだったこともありましたが、ほかの怪獣映画はここまで好きだったことはありません。庵野監督のエヴァはあまり好きではないです。
シンゴジラは、科学的で論理的であったからこそ好きだったのです。

正直申し上げて、貴方が戦って下さった、非論理的なゴジラこそゴジラでその擁護のためなら、どんなに映画を貶しめてよいと思っている方の浅はかさを引き出して下さったことに感謝いたします。

ありがたいことに私はゴジラ好きの夫とこの映画を初日に観て最高に感動して語りあったのですが、貴方様と彼とのバトルをみて、夫と私のゴジラ感にも隔たりがある
ことがわかりました。
夫は災害の象徴であるゴジラが好き(メーサー砲も含めて)(あの映画の中で撃ってくれたらもっと良かったと言ってました)
私は巨大生物や恐竜が現代に科学的に現れてくれて、街を破壊しつくしてくれることに最も惹かれます。そして科学的に論理的に解決してくれる映画が好きです。
ゴジラの美しさが好きです。
大した理由じゃないなと自分でも思いました(*/▽\*)
いろいろと気づかせてくれてありがとうございました。

真理
hiroshiさんのコメント
2016年8月7日

浮遊きびなごさん、丁寧なコメントありがとうございました。
古き良き時代の怪獣映画好きな年寄り一歩?手前です。

ゴジラは、第三作目から地方の小映画館で、しかも数ヶ月遅れで公開される作品を鑑賞していました。
でも新しい映画も好きなんですよ。
今回の「シン・ゴジラ」、2001年公開、2004年公開、のゴジラのように特撮は凄いのですが、私がゴジラの感情(ないと仰る方もいますが)を感じ取れないのです。怒りを(対人間、対敵怪獣等)スクリーンから受け取れないのです。
映画を鑑賞し始め『あれ?』という感覚が最後まで続きそのまま終わってしまった。
というのが正直な所の感想です。
そんなもの感じる必要がないと他の方に言われそうですが、求めているのがこういう感覚なんです。

hiroshi
浮遊きびなごさんのコメント
2016年8月6日

低評価のレビューに対して以下のような事を
元のレビュー内に記載しておりました。
今後の反省としてコメントとして内容残します。
不快に感じられた方々、大変失礼致しました。

* * *

今回低評価を付けている人の主な傾向…

・ヒロイックなゴジラが観たかった人
・専門用語だらけの会話シーンが多く退屈に感じた人
・ゴジラの出番が少ないと感じた人
・3.11や核といったテーマ性がまだ不足と感じた人

ここまでは個人によりそう感じても仕方無いが、
さすがに考えが偏り過ぎてないかと思うのが、
・エヴァとの類似点ばかりに目が行き、ゴジラ
 映画に作家性を持ち込むとは何事だと憤る人
 (逆にエヴァへのこだわり強過ぎじゃないかしら)
・特撮映画は着ぐるみとミニチュアしか認めないという人
 (気持ちは分かるが邦画が停滞しちゃうよ)
・政権批判をしたくて細部をこじつけたい人
 (個人的にはこれが一番最悪。レビュー
  するふりして自分の鬱憤晴らしをするな)

不満があるのはしようがないですけどね、
判定0.5~1.0って、この映画より下は無いって
ことです。少なくともこれより不出来な映画
ってまだいくらでもあると思いますけど。
自分は楽しめなかったのに他人の高評価が
気に入らないとか、単なる怒り任せとかで
最低点付けるって、それはレビューと呼ばないよ。

低評価レビューにもこれまで目を通してきたが、
なんだかものすごく疲れてしまった。
丁寧な低評価レビューは良いけど
敵意に満ちた低評価レビューが多すぎる。

「なんでこの映画がこんな評価高いの?」
と独りで怒るのは勝手だが
自分の意見だけが唯一絶対に正しい意見で、
他の意見の連中はゴジラを知らないバカだ、
みたいな書き方は本当にやめてほしい。
「自分はこう思う」という書き方なら良いが、
「お前は間違ってる」という書き方は駄目だよ。
全員が全員、自分と同じ価値観で物を観てるとは
限らない。勢い余ってこの映画に感動した
人達の人格まで攻撃するのはやめてください。
無論こちらも、低評価の人を頭ごなしに
非難しないよう落ち着かないといけないけど。

* * *

他人の評価が気に入らないので
他人の価値観を否定するのは、
自分が批判している姿勢と何ら
変わりません。我ながら情けない。
重ねて申し訳ございませんでした。

浮遊きびなご
hiroshiさんのコメント
2016年8月6日

ただ単に、この映画の感想と評価(勿論主観的)をレビューしているだけで、恐らくは殆どの人が評論家ではなく自分の金で映画を鑑賞しているユーザーである。評価を低く付けているからと言って非難・中傷を受ける言われはない!と思うが?

hiroshi
2016年8月3日

こんばんは
コメントありがとうございました。
僕のレビューで気分を害されてたら申し訳ありませんでした。
きびなごさんのレビューも読ませて頂きました。大変丁寧でゴジラに対する熱が伝わってきました!
残念ながら僕個人は否定派なので共感はあまりできませんが的確で素晴らしいレビューだと思います!

I ♡ MOVIE
ゼリグさんのコメント
2016年7月31日

初めまして、ゼリグと申します。
コメントありがとうございました。
僕の拙文に共感していただけたようで、本当に恐縮です。
僕は「ゴジラvsビオランテ」が最初に観たゴジラで、一番のお気に入りなんですが、あれも遺伝子工学をテーマにした「未来への警鐘」と取れる作品であると思います。
ゴジラは、作られたその時代の「今」と「未来」を体現するシリーズだと思っていて、今回の作品も、今風の演出であるドキュメンタリータッチの演出で徹底的に現代の日本の「今」と「未来」を描いた、紛れもないゴジラ映画だと思います。
余談ですが、ラストの意味は3回観てもよくわかりませんでした(笑)
また機会があれば、よろしくお願いいたします。
それでは。

ゼリグ
近大さんのコメント
2016年7月30日

コメントありがとうございます♪

ただ一言、スゲーゴジラでした。
「対メガロ」はもう見れません!(笑)

賛否両論になる事は分かりますね。
それも覚悟の上で両監督は作ったのでしょうから。
ただ、ガメラは昭和から平成でガラリと変わっても絶賛されましたが、ゴジラはそれはダメというのは納得いきませんね。
ゴジラには確かに絶対なルールはあり、今回それギリギリでしたが、精神や訴えるものに何ら変わりありませんでした。
これが、今のゴジラだと感じました。

エンディング曲はきっと、両監督のチョイスなんでしょう(笑)

気になるのは次回作はあるのか。
庵野監督が手掛けるのは今回一本限りと公言してますし、これを受けての次回作は難しいでしょうが…
また本家ゴジラをスクリーンで見れる日までを楽しみに♪

近大