シン・ゴジラ : インタビュー
長谷川博己&竹野内豊が目撃した庵野秀明の“覚悟”
“怪獣王”が、12年ぶりに帰ってくる--。東宝が約12年ぶりに製作する、特撮怪獣映画の金字塔「ゴジラ」シリーズの新作「シン・ゴジラ」が、7月29日に全国で封切られる。圧倒的な人気を誇るアニメ「エヴァンゲリオン」シリーズの生みの親である庵野秀明の脚本・総監督のもと、3監督・4班体制、総勢1000人以上のスタッフ、328人のキャストによる大規模な撮影に臨んだ俳優の長谷川博己と竹野内豊が、同作に参加したことで得た新たな気づきについて語った。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)
ギャレス・エドワーズ監督が手がけたハリウッド版「GODZILLA」が全世界で大ヒットを飾ったのは、2014年。日本で久しく姿を見ることがなかった“本家”復活への機運は、否が応にも高まった。そして東宝が「ゴジラ FINAL WARS」以来の新作製作に際し、命運を託したのが庵野総監督だった。
初代「ゴジラ(1954)」の大ファンだという長谷川は、その魅力を「子どもの頃に見てすごく怖かったんですが、中に人が入っているという、どこか有機的なおかしみも感じていました。語弊があるかもしれませんが、かわいげがあるけど怖い。それが怖いけど格好良いという風に子どもの頃はつながっていったんでしょうね」と明かす。一方の竹野内は、「世の中にゴジラという巨大不明生物が知られていない設定というのは、54年の初代ゴジラ、ハリウッド版ゴジラ、そして今作だけなんですよね」と口火を切る。そして今作への手応えをにじませながら、「老若男女問わず楽しむことができる映画ですよ、これは。それにハリウッド版の総製作費の十数分の一以下で仕上げているんですが、製作費をいくらかけたとか、そういう話じゃないと感じたんです」と穏やかな笑みを浮かべる。
ストーリーは、東京湾アクアトンネルが巨大な轟音とともに大量の浸水に巻き込まれて崩落する、原因不明の事故が発生するところから始まる。首相官邸で行われた緊急会議で「原因は地震や海底火山」という意見が大勢を占めるなか、内閣官房副長官の矢口蘭堂(長谷川)は海中に生息する巨大生物による可能性を指摘。内閣総理大臣補佐官の赤坂秀樹(竹野内)をはじめ周囲は一笑に付すが、直後に巨大不明生物の姿があらわになる。慌てふためく政府関係者の情報収集は後手に回り、巨大生物は鎌倉に上陸。自衛隊には防衛出動命令が発動され、米国国務省からは女性エージェントのカヨコ・アン・パタースン(石原さとみ)が派遣される。
今作は待望の「ゴジラ」映画であるとともに、各方面への取材が綿密に行われ脚本に落とし込まれた、リアリティを追求した災害シミュレーション映画と解釈することができる。それだけに2人は、昨年8~10月に行われた撮影に際し、役作りには試行錯誤を繰り返したようだ。
長谷川「矢口という人物は、40歳になる前に官房副長官になっているということが、人物像を描くうえで大事だと思うんです。なんでそのポジションにいけたのかが矢口の面白いところであり、探らないといけないところだなと。いろいろ調べてみたところ、衆議院議員を二期以上やって選ばれないとそのポジションには立てないので、30代としてはとても異例だと思います。そういう出る杭は打たれる状況にあって、どのような心境で『これは巨大不明生物だと思います』と口にしているか。結構大きなことだと思うんですよ。間違っていたら政治家としては沽券に関わるでしょうし。目立ちもしなければ悪目立ちもしないという、淡々としている無色なところが矢口にはあったんじゃないか。いるようでいない、いないようでいるような人物の方がいいんだな、と思ってみたりしながら肉付けしていきました」
竹野内「政治家の役は初めてでした。表面的な部分はテレビなどで見る事はあっても、実際に裏でどういう会話をしているのか。演じるうえで、知りたいのはそこですよね。ただ、さすがにそういう資料を得ることはできなかったので、分からないものは分からないと正直に言うべきだと思って、庵野さんに相談したんです。そうしたら、赤坂が発するセリフの重みも含めて『ああ、そういうことか』と疑問が氷解していきました。そこからは、僕自身が個人的に感じるエッセンスみたいなものは加えていこうと思いました。それにしても、長谷川さんはセリフの量も膨大だし大変だったんじゃないでしょうか。でも、そういう事を微塵も感じさせず、現場では本当に楽しくお話をさせてもらいましたね」
役へのアプローチはさまざまだが、2人の思いが庵野総監督を分岐点に交錯する瞬間もあった。竹野内が「赤坂の言動って、すごく冷徹ですよね。ですが、言っていることは正しいことばかり。いろんな話をしているうちに、庵野さんが赤坂に見えてくる瞬間があったんですよ。そういうことを景色の中に入れながら演じていました」と話せば、長谷川も「僕は自分のことを、演じた矢口よりも赤坂タイプだと思っているんです。それを庵野さんに話してみたら、『僕もそうだ』とおっしゃっていました。赤坂は国民のことを考え、最も犠牲が少ない方法でベストな選択をしている。だけど、矢口は他にも救える人がいるはずだと思っているし、捨てていない部分が多い。そこが政治家としては純粋ですが、未熟なんでしょうね」と明かす。
また現場では、庵野総監督と盟友ともいえる樋口真嗣監督のプロフェッショナルな仕事ぶりを目の当たりにしたようで、長谷川と竹野内も笑みを浮かべながら振り返る。
長谷川「樋口さんが前に出てやっている事もあれば、庵野さんが前に出られる事もあった。長年の呼吸で分かっておられるのでしょうね。そういう風に僕は感じました。時おり意見の対立みたいなものは、もちろんありましたけどね」
竹野内「僕はそういう場面に遭遇したことがあったかなかったか、あまり記憶にないんですよね。ぶつかるところは当然あると思いますよ。ただ、お付き合いが長くて絶大な信頼感を寄せておられるでしょうから、現場ではお互いが補い合っている感じがしました。そうだ、すごく面白かった事がありました。樋口さんが『オッケー!』とは言わず、『オッ……ケーですよね?』と問いかけて、庵野さんが『うん』って返したり。あと、現場の状況を長谷川さんがメールで伝えてくれる事もありましたよね」
長谷川「災害特別室のシーンなんかは、おふたりともが『あれ、いいねえ』とか、すごく楽しそうに笑い合っていたんですよ。ですから、竹野内さんに『災害特別室のところは、いつにも増してこだわって撮っています』とメールをしたら、『久しぶりにメールを見て声を出して笑いました』と返事をいただきました(笑)」
過酷を極めた撮影を、ひょうひょうとした面持ちを浮かべながら何事もなかったかのように語るのも、完成した作品の出来栄えに手応えを感じているからこそだろう。そして、12年ぶりに日本を代表する「ゴジラ」というタイトルを背負った庵野総監督ら製作サイドの“覚悟”に対し、2人は敬意をにじませる。
竹野内「庵野監督は、エヴァンゲリオンで燃え尽きて、自分が壊れてどうにもならないことを公表されたわけですが、それだけ信念を貫いてきた人だからこそ、今回のゴジラも相当に背負うものがあったはずなんです。この映画が全世界で公開されたとき、改めて海外の方々は“日本人にしか絶対にできない何か”を感じると思うんですよね。ぶれずに信念を貫く“本気”って、自分がぶっ壊れてでもやる気持ちなのかな……。自分に出来るかというと並大抵なことではない。とにかく、勉強になりました」
長谷川「庵野さんの信念の貫き方。僕らも表現者という仕事をさせてもらっていますが、あそこまでいかないとすごいものって生み出せないのかと。命を削るって誤解を招くかもしれませんが、そうまでしないと何かが生まれないと感じました。俳優に何ができるかって言われたら分かりませんが、もっともっと気迫を込めて勝負をしていかないと。そこまで自分を追い込んでいきたいなって気持ちにさせてもらいました」