「たくさんの愛に溢れた作品」バケモノの子 白波さんの映画レビュー(感想・評価)
たくさんの愛に溢れた作品
前作「おおかみこども」から三年でしょうか?偶然なのか今回もケモノがテーマの作品となりました。
予告で観た限り不安というか微妙なところはミスチルだけだったので、これまた楽しい足取りで劇場に向かいました。
作品は冒頭から力の入りようが伺え、とても豪華な絵面。
目まぐるしい主人公の目線は細かく描かれていて、特に狭く低い子供の視点は見事でした。
大人の足元をかいくぐるカメラワークなどは、スコセッシの「ヒューゴ」を彷彿とさせます。 また色彩も豊かでそんな処もわくわくさせられるんでしょう。
細田監督はキャスティングも上手く、役者起用の作品の中でもあまり違和感を感じません。
役所広司は素晴らしいですし、大泉洋も安定です。 そんな中リリーフランキーが少し不安だったのですが、これがまた想像以上にうまく、なんと味わい深い演技をするのだろうと関心しきりでした。
実写での彼の演技の幅は知っていたのですが、新たな一面を知るきっかけとなりました。
さてこの作品、前半こそファンタジーテイストの話なのですが、後半から大きく転調します。
何しろ話のペースが緩やかな前半と比べ一気に変わるのですから、観ていて戸惑う人もいたと思います。
もともと作中に小さな伏線をいくつも差し込んでくる監督でしたが、この後半パートではかなりの物量が詰め込まれていたと思います。
そんな物語はどんどんスピードを増していくのですが、ふとぽろっと出てくるセリフにも結構重要なキーがあったりと、観ていて緊張感があります。
そうして最後の対決シーンでその速度はついにピークを迎えます。
この後半から徐々に上り詰める感じが、本当にうまくできていたと思いますね。
ただ、この後半パートあまりに要素を詰め込んだような感じは残り、脚本が少し粗く見えちゃった感じではありました。
また個人的にですが、今回の作品は随所に「ポスト宮崎駿」のプレッシャーのような物も感じ取れました。
そういった演出が結構目立っていた気がしたんですよね。
とはいえ、これだけ壮大なエンターテイメント大作を作り上げたのだから凄いものです。
そんな転換期をも思わせるこの作品、次作で監督がどう化けるかとても楽しみになりました。 少し寂しかったり、少しうれしかったり、そんなたくさんの愛に溢れた作品でしたよ。