「弱者でございます」あん 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
弱者でございます
是枝監督とならんで演出のリアルさが優れている。会話や仕草や表情など「この人たちは自分が映画に出演していることをわかっているのだろうか?」と思えるリアリティ。どうやってカメラを意識させないようにしているのか、わからない。
年譜を見ると、びっくりするほど多作な人だが、作風からして、興行も興行成績もひかえめだと想像する。その作風を、心境の変化か、興行主の意見か、解らないが、この映画から変えた。──と思う。
かわいそうな立場やしいたげられた人でシンパシーを稼ぐ作家とは気づかなかったのだが、この映画や光にはお涙系の演出が目立った。正直なところ、リアルな演出を取ってしまえばセンスのない映画監督だと思う。
オーナーに連れられて、甥っ子がガム噛みながら「どら春」に入ってくる。一目でわかる憎まれ役。観る者の反感を煽りたい意図が見える──というより、いまどき月9にすらこんな直截的描写はない。かなり衝撃を受けた。
店長には、負目と前科があり、母を亡くしている。呑み干したカップ酒に吸い殻、落ち込む度にお酒、短絡の目立つ弱者キャラクターだった。光で同じ永瀬正敏が演じている盲のカメラマンも、しいたげられた/かわいそうな設定で、シンパシーを稼いでいる。
アートハウスの監督と見ていたが、たんに辛気臭いだけなのかもしれない。
話も、餡が変わってすぐ行列できちゃったり、鳥カゴ抱いて家出したり、徳江さんが生前に録音遺していたり、どこまでも作られた話(原作)だと思った。
一杯のかけそばで言うなら「ハンセン病」は「貧乏」のようなもの。いい話というよりうまい話だが、かつての監督作よりもてなしがよく、裾野をひろげたものの、個人的には醒めた。