「「怒り」そして「許し」」怒り 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
「怒り」そして「許し」
原作既読。
結末を知ったうえで見ているので、それぞれの所作にドキドキすることはなかった。それは先に読んでしまった損ではあるが、代わりに、役者の表現する演技の種明かしを舞台の天井から覗き見しているような感覚を味わえた。
しかし、役者がみな上手い。
どっしりとした重しのような渡辺謙は、どう見てもいつも同じ演技なのだが、毎回その役に見えてしまう。
綾野剛なんか、小説のラストを知っているだけに、もう出てきただけで泣けてきた。
妻夫木の素っ気なさも、抱きしめたくなってきた。
宮崎あおいも広瀬すずも、吐き出さないと心がこわれてしまうんじゃないかと思えるくらいの激しい慟哭だった。
広瀬は、そうとう監督から精神的に追い込まされたんだろうと思えるくらいの表情だった。
ただ。
ラストにもやもやが残る。
泉(広瀬)は、辰哉が自分の秘密を守ろうとしていることを知っていなければならない。その秘密を告白するかの葛藤を見せてこそのあの慟哭ではないか?
辰哉も、田中が知っているのが分かったからこそ、凶行に出たんではないか?順序が逆だ。
直人が死んだ後の優馬も、直人のやさしさを後に知り、疑った自分を後悔し、墓前で話しかけるラストこそがふさわしい。
映画という枠にあれだけ上手く詰め込んで、最後にそのための尺は残っていなかったのだ、としても手落ちであるような気がして残念だった。
エンドロールで見つけるまで忘れていたが、音楽は、坂本龍一。
ラストのクライマックスに向けて流れた穏やかな旋律などは、躍り出ようとする感情をしっかりと抱きしめるような母性を感じた。
曲のタイトルは「許し」という。
「怒り」とは対極ではないか、と軽く衝撃を受けた。
観終えて、ずっと自問している。
自分はいままで人を信じてこれたのだろうか。
自分はいままで人に信じてもらえてたのだろうか。
その関係が崩れたとき、自分が信じれなくなった時、信じてもらえなくなった時、僕は怒りの感情をさらけ出すのだろうか。
ずっと「怒り」とは、「許し」とは、と考えている。