「怒り」怒り みゆさんの映画レビュー(感想・評価)
怒り
見終わって思うのはどこにもぶつけられない・ぶつけても消化されることはない「怒り」が東京、千葉、沖縄のキャラクターに共通するものなのかなと。
東京編の良さは綾野剛さんが全て持っている気がします。
囁くような声と薄い体と白い肌で普通の人より一層存在が儚い感じが演出されていて、ふらっと消えてしまったかと思ったら死んでるなんて思わないでしょ。犯罪者かも、って疑ってたんだからより衝撃が大きかった。
2人は出会いこそ気まぐれだったのかもしれないけど、
この作品の3つのお話の中では一番やさしいお話しで、
妻夫木さん演じる優馬の自分の疑ってしまった気持ちに対する怒りがとても悲しい。
墓地での「一緒の墓入るか」って言葉と、その後の回想で2人窓際で外を眺めながら幸せそうに直人が「一緒は無理でも隣ならいいな」って呟くように言ったときは泣いた。
なんで病気だった事を言わなかったのかを考えると、
綾野さんが演じた役の直人視点から考えて治らない病気なのに言ってもしょうがないとか、愛したから悲しませたくなかったとか、考えるだけで悲しい。
「疑ってるんじゃなくてさ、信じたいんでしょ。」ってセリフが後になって涙腺にくる。
沖縄編は広瀬すずさんがすごく印象に残ってる。
モデルをやっている雑誌もCMも見ているし、生で見たこともあるけど演技については少しのドラマでしか知らなかったから、こんなにすごかったっけとドキドキするような演技でびっくり。
辰哉がお酒をこぼしてしまうシーンは予定外でアドリブで続けたハプニングカットがそのまま使われているらしくそれにもびっくり。
演技のリアリティがありすぎて目をそむけたくなるようなシーンもあったけど広瀬すずの演技力に目を背けられませんでした。でもしんどい。
森山未來さんが演じた田中は無造作に伸ばした髪や髭が少し不気味でどこにでもいるような雰囲気をまとっていた。
でも無人島にいることや、「誰もにも言わないで(ここにいることを)」というセリフ、泉に「田中さん」と繁華街で呼ばれたとき反応が遅れたことと驚いていたことから考えると一番怪しいですよね。
殺害の犯人として周りから疑われることもなかったし、
周りに信用されて信頼されていたからか、田中の「なんで信用できるの」っていうセリフでガーンとなりました。
優しい言葉をかけたり自分に刃をあてていたり、逆立ちになったり、気がくるっているおかしい人なんだってのが不気味でした。辰哉が怒りを表して田中を殺したけど多分その怒りはどうしようもないもので、田中を殺したからと言ってなくなるわけでもなくて、泉に関してもきっとそうで警察に通報しても、誰かに話してもどうにもならない怒り。
千葉編は渡辺謙さん演じるおとうちゃんの宮崎あおい演じるアイコへの愛情が痛いほど伝わってきた。第一に心配する気持ちが大きくて、アイコ自身のことや、素性の知れない田代と娘のアイコが距離を縮めつつある事。お父ちゃんの悩んでいるのがひしひしと感じ取れた。
お父ちゃんが田代に言った「あいつすこしおかしいんだよ(うろ覚え)」セリフはアイコの知能の事をいっているのかな?感じているものが当たっていれば、小さい子供から目を離せない的な。
でも、それをわかってアイコといると「落ち着く」、
「なんでも話してしまう」と言った田代とアイコの間には2人にしかわからないような空気感があったんだなと。
千葉編に関しての「怒り」はアイコじゃなくて渡辺謙演じるお父ちゃんが感じたもの。疑ってしまったばかりにアイコを惑わせてしまった自分への怒り。
宮崎あおいのすっぴんであどけない雰囲気に、泣き狂った演技が印象強い。
終わり方としては3編とも何ともいえない感情が迫って来る。つらいとか悲しいとかしんどいとか。
私は綾野剛さんと妻夫木さんの東京編を楽しみに見に行った映画だったのですが、想像以上にすごいものを見せられてしまった感が半端ない。LINEliveで渡辺謙さんが言っていたように東京編が一番純愛だったんですが、整理しながらここに書いていると悲しくて泣きそう。行為後のよだれとか、コンビニでお弁当と一緒に男と使うための避妊具買ってる綾野剛が最高だったのをメモしておきます。
疑問を投げかけるとしたら、電話で話していた空き巣の件と夫婦殺害の動機ですかね。動機なんてものはない。ってのもありだと思っています。
各俳優陣の演技にリアリティがありすぎてスクリーンに飲み込まれているような感覚を持ったシーンも何度かあった、ミステリーというより人間ドラマだった、人を愛すること、信じることが何を生むのか、信じるために何をするのか、考えさせられる作品でした。