劇場公開日 2016年9月17日

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「ある一定量の面白さは保証してくれる李監督」怒り saikimujinさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ある一定量の面白さは保証してくれる李監督

2016年9月18日
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物語がものすごくゆっくり進行していくんだけど、停滞する所がない。
3つの物語それぞれが、しっかり独立しているし、そのバランスもすごく良かった。
監督がインタビューにて、停滞しない様に心掛けた、バランスが保たれる様に気をつけた、と言っていたが、とても上手くいってると思う。

なんか思わせぶりな映画だな〜とも言えるけど、ミステリーとして純粋に面白かった。

実力派を掻き集めてるキャスティングはいいし、元々の原作もまぁ良いし、音楽も坂本龍一氏の彼らしいメロディがとてもいい。

特にキャスティングに関しては、こちらが思う、この役者さんはこのぐらいまで見せてくれるだろう、という無意識の予測を、それぞれ少しづつ越えてきてくれた。
このタイミングで広瀬すずをあの役にキャスティングし、覚悟を決めさせたのには驚いたし、妻夫木聡をゲイ役にキャスティングしたのも、誰もが妻夫木聡に思うイメージを拡大してくれた感じでバッチリだったし、放浪の旅から帰ってきたばかりの森山未來をバックパッカー役に当てたのも間違いない判断だし、誰もがもう見たくない松山ケンイチのおバカギャグ映画の側面を一切許さず、徹底して松山ケンイチの一番の長所である暗い目だけを見せ続けてくれたのは、李さんは役者の使い方がよくわかってる。観客目線で役者を理解してるな、と思う。
中心に大黒柱 渡辺謙を置くところなんかもそりゃ間違いないに決まってる。
カメラや照明や編集に関しては、どれも奇抜な事は一切せず、クラシカルな方法でしっかり押さえてくれている。
何だか、周りの技術スタッフや役者陣に助けられている様に感じるのは、否めない…
いや、でもこれも監督としての腕なのだろう…。

李監督の映画って模倣してるパターンが多い様に感じる。フラガールはリトルダンサーに似ているし、許されざる者はリメイク、今回のタイトル「怒り」も「渇き。」を彷彿させるし、3つの異なる物語が同時進行で描かれるという点では「バベル」っぽいなぁ〜とか思った。まぁ原作がそうだからなんだけど。

でも日本映画の中で、李監督の作品は一定の面白さを保証してくれる監督なのは間違いない。
カメラワークや演出、編集などをとってもクオリティの高いものを必ず出してくれるから安心して見られる。そういう意味ではタイプは違うけど是枝監督みたい。信頼できる。

ただどうしても、どこか重い風であり、良い映画風なだけな感じがする。なんか煙に巻かれてるような感覚。
この映画を見た人達が「なんか考えさせられた」って感想だけで完結しちゃってるのがその象徴。具体的な感想が出ないんです。
そんな事もあって、俺はまだ李監督をちょっと掴めないかな。
化けの皮が剥がれない感じがする。

saikimujin
namaegasadamaranaiさんのコメント
2016年9月22日

まさに!なレビューでした。すっきりした。

namaegasadamaranai