シンデレラ(2015) : インタビュー
ケネス・ブラナー&リリー・ジェームズ「シンデレラ」に魔法をかけた英国人気質
「アナと雪の女王」「マレフィセント」で新たなヒロイン像を提示したウォルト・ディズニーが、満を持して放つ実写版「シンデレラ」が日本に上陸する。1950年に公開された同名のマスターピースは、戦後の混乱でピンチに立たされた当時のディズニー・スタジオを復活させ、今もシンデレラ城がディズニー映画のオープニングロゴに使用される、いわばディズニーの象徴的な存在である。誰もが夢見た実写化は、数々のシェイクスピア劇で名を馳せ、映画界に進出した名匠ケネス・ブラナー監督に委ねられた。主演に抜てきされ、文字通りのシンデレラ・ストーリーを勝ち取ったのは、新進女優のリリー・ジェームズだ。(取材・文・写真/内田涼)
「魔法で美しく変身を遂げるシンデレラ、かぼちゃの馬車やガラスの靴、そして真夜中のカウントダウン……。誰もが思い浮かべる名シーンを忠実に再現するのと同時に、誰もが知る物語を内側から生まれ変わらせたいと思った。そんな“魔法”がどこにあるかって考えたとき、やはりカギになるのは、いかにシンデレラという女性を描くかという点だった」と語るブラナー監督。当初は「自分がファンタジーを手がけるなんて思ってもみなかった」というが、改めてシンデレラの人間性を深く掘り下げるという作業に、「うれしい驚きを感じた」と振り返る。「最終的にたどり着いたのは、優しさとユーモアを兼ね備え、自立心にあふれる女性像だった。幸せを待つだけの受け身なプリンセスではなく、自ら運命を切り開くヒロインとしてのシンデレラこそ、現代にふさわしい」
白羽の矢が立ったジェームズは、人気海外ドラマ「ダウントン・アビー」のローズ・マクレア役で注目を浴びる新進女優。今月26歳の誕生日を迎えたばかりで、先日都内で行われた来日会見ではサプライズで用意したバースデーケーキに、思わず瞳を潤ませる場面もあった。インタビューはその直後に行われ、「すてきな贈り物をもらった。プロモーションを通して、たくさんの国の方とお話できるのも刺激になるわ」と上機嫌だ。
「出演が決まった瞬間は、思わず『ワオ』って叫んじゃったわ。ディズニーが製作する『シンデレラ』というだけで興奮するし、脚本もすばらしかった。何より、監督を務めるのがケネスでしょ。これ以上ない環境で、作品の一員になれることが本当に光栄だった」(ジェームズ)。「僕らもリリーで出会えて幸運だった。彼女の魅力は、聡明で恐れを知らず、ありのままの自分でいてくれること。そこにいるだけで、強いインスピレーションを与えてくれる存在感だ。まさに私たちが思い描いた、新しい『シンデレラ』にぴったりだったよ」(ブラナー監督)
お気に入りのシーンに、ブラナー監督は舞踏会を挙げ「観客の皆さんを夢の世界にお連れするのはもちろん、『願いや希望は必ず実現する』という作品のメッセージを伝えるためにも、とても重要だった」と強い思い入れを示す。シンデレラと王子の愛と絆がより深まる重要なシーンでもあり、「今回は王子にも注目してほしいんだ。彼はシンデレラを見初めるのではなく、すばらしい魅力と人格をもつ彼女に見合う男になろうと努力する。一緒に人生を歩むパートナーとして、お互いを見ているんだ」とヒューマンドラマの側面をアピールする。
一方、ジェームズは「継母の仕打ちに耐えかねて、馬にまたがり、屋敷を逃げ出すシーンね。乗馬の経験はさほどなかったから、撮影前にトレーニングを重ねたわ」。鞍もつけずに、自ら手綱をとる姿は「人生の主導権を自分で握る、自由と自立の象徴なの」と語る。自身との共通点を聞くと、「私はシンデレラほど優しく寛容ではないかもしれない。きっと私の兄弟が見たら『似ていない』って言うかもね」と笑顔が弾けた。
ともにイギリス出身で、演劇で俳優としてのキャリアをスタートさせた。ふたりがタッグを組んだ「シンデレラ」は格調高い美意識に加えて、英国人らしいウィットという魔法がふりかけられている。「確かに僕らは、ユーモアのセンスが共通しているかもね。仕事に対しては真剣。でも、ふたりともちょっとクレイジーな感性の持ち主であることは認めるよ」(ブラナー監督)。これにはジェームズも「同感だわ!」と爆笑していた。
演劇といえば、ブラナー監督とジェームズ、さらに本作でキット王子を演じたリチャード・マッデンの3人がシェイクスピアの舞台「ロミオとジュリエット」で再集結すると報じられたばかり。ブラナー監督は「まだ企画を練っている段階なんだ。こうやって、世界中をプロモーションしながら、リリーやリチャードと直感的にいろいろな話をしているよ」、ジェームズも「一緒に舞台に立てるのが、今から楽しみ」と胸を踊らせる。
「リリーの魅力は、純粋さと遊び心があること。ジュディ・デンチや、リリーが『ダウントン・アビー』で共演するマギー・スミスといった名女優に共通したすばらしい資質なんだ。彼女に会って2年以上の歳月が経ち、よりエレガントに成長しているしね」(ブラナー監督)。「私にとってもこの2年間は、すばらしい時間だった。日本で映画が公開されて、うれしい反面、私たちの旅も終わろうとしていて悲しい気持ちもあるわ。シンデレラ役が今後の私に何をもたらすか、答えはまだわからないけど、強い自信につながったのは確か。女優としても人間としても、多くのことを学ぶことができたわ」(ジェームズ)。
現在、ディズニーは「ジャングル・ブック」、「アリス・イン・ワンダーランド」の続編である“Alice in Wonderland: Through the Looking Glass”、「ダンボ」「ムーラン」「くまのプーさん」「ピノキオ」と数多くのクラシックを実写化する計画を進めている。その幕開けともいえるブラナー版「シンデレラ」は、後続の作品に大いにプレッシャーを与える高い完成度を誇っている。